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プロレス×映画

プロレス題材映画:モヤモヤブラックコメディ『ホネツギマン』

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 プロレスを題材にした映画は国内外にチラホラ存在します。佳作から超ポンコツ作まである中、「プロレス(ラー)を題材にした映画」シリーズとして最初にご紹介する作品は『ホネツギマン』(1998)。
『ファーゴ』『ビッグ・リボウスキ』など独特な作風で知られるコーエン兄弟のお抱えストーリーボード(絵コンテ)作家の初監督作品で、イーサン・コーエンも共同脚本家として参加したブラック・コメディです。

 昼間は整体師、夜はローカルレスラー「ホネツギマン」として活動するエディは、妊娠中の妻の要望で渋々プロレスを引退し、家出同然に飛び出して来た故郷に戻り、実家の薬局前に自らのクリニックを開業することに。
 ところが、薬局チェーン展開の傍ら麻薬売買に手を染めるスティックスによって、実家の両親と妻が虐殺される事件が発生。悲しみと怒りで精神崩壊してしまったエディはホネツギマンとしてプロレスのリングに舞い戻り"正義の整体師"として覚醒する・・・という内容。

 プロレスと出会ったエディがイジメられっ子に勝つために関節技を覚え、人体の仕組みを学びながら成長。整体師を目指すと同時に、人体の知識をベースにした関節技を武器に、人体解剖図の全身タイツに身を包んだ「ホネツギマン」として人気レスラーになる、というのが序盤の前振り。
 ここまでのエディにとっての"正義の執行"はプロレスでのリングでヒールを倒し、クリニックで骨の歪みを正すことだけだった、という定義付けです。

 プロレスを描いた部分では、レスラー「ホネツギマン」が生まれる過程、試合中のベビーとヒール(ヤラレ役)のやりとりやプロモーターとの舞台裏での打ち合わせといった"プロレスの仕組み"をデフォルメした示唆があります。
 本作の分岐点となる事件発生後のシーンでは、エディが試合中のレスラーやレフェリー、さらに止めに入ったレスラー達も見境い無く関節をキメまくり全滅に追い込んで締めのスピーチを行いますが、これもWWEでありそうな流れ(全員で乱闘がほとんどですが)です。

 で、このスピーチの内容が「人間の悪の根源は背骨の歪み。これをこの世の悪を僕が正す」という電波な感じなので、サイコなヒーローの世直し整体殺人の開幕や!と思ったら、何のことはなく、話の流れとしては両親を殺した犯人探しと復讐劇に集約(突如としてグロ展開アリ)。
 プロレスでいえば、前哨戦では負けっぱなしだったけど、マネージャーの助けもあって最後は大勝利、といった感じで決着します。

 さておいて、スティックスの障がい者としての正論だけど理不尽に聞こえるクレーム(店の入り口にスロープをつけろ等)やら、殺人も犯しているのに「簡単に心神喪失が認められる」という台詞でのハッピーエンドなど明るく終わった割りにはモヤモヤとした何かが残るのも確か。
 正直、物語後半はプロレス関係ありませんが、"行き過ぎたベビーフェイス観"に、ヒールによる"実は正論的な煽り"や"終わり良ければ全て良しなご都合主義"ということで捉えれば、なるほど全体を通してプロレスっぽい作品と言えそうです。

(文/シングウヤスアキ)

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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