インタビュー
映画が好きです。

Vol.24 横浜聡子さん(映画監督)

憧れは、候考賢監督。魔法にかけられたような衝撃がありました。

 デビュー当時から絶大な評価を受けている鬼才、横浜聡子監督の最新作『俳優 亀岡拓次』がいよいよ1月30日に公開! 松山ケンイチ主演『ウルトラミラクルラブストーリー』以来、6年ぶりの長編となる本作、待ち望んでいた人も多いのではないでしょうか。そんな横浜監督に、愛される脇役俳優、亀岡拓次の魅力や、撮影時のエピソードなどをお伺いしてきました!

──どこからが妄想で、どこからが現実なのか、境界線が見えない映画でしたが、どういう感覚を目指していたのでしょうか?

「本作は、亀岡が現実と非現実を簡単に跨いでしまうような、脳内の旅を描いた作品でもあります。"生きること"というのは、結局、不安定で先が見えないことだと思っていて、まさに先が読めない亀岡拓次は人の現世そのものだなと。明確なゴールがあるわけではなく、人の人生のように、その都度必死に行きて道を作っていく......そういう映画にしたかったんです」

──安田顕さんを主演に抜擢した理由は?

「亀岡拓次は、名前がタイトルになるくらい、ある意味強烈な役なので、かなり悩みましたね。そんな時、安田さんの魅力をプロデューサーから教えていただいたのが、オファーのきっかけでした。亀岡は、朴訥で強烈な欲望もなく、"酒飲みたい""モテたい"というその都度の小さい欲望だけを持ち、映画の主人公としての最終的な目標というものがあまりない人物。そういう役柄を演じることって、いやらしくなったりして難しいと思うんです。安田さんは個性の強い役をたくさん演じてこられましたが、そういった個性の強い役というのは、それとは真逆の素朴さのようなものを持ってないと、なかなかできないと思うんですよね。明るさも暗さも持ち合わせているというか。テレビで見ると饒舌で周囲を楽しませているキャラクター、一方で寡黙な部分も持っている安田さんは、まさに亀岡だなって思いました」

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亀岡拓次を演じる安田顕さん。

──本作では、原作には描かれていない亀岡の内面を意識したとのことですが?

「男性が恋に落ちる瞬間というのは、私にはわからないので、内面はほぼ安田さんに丸投げしていましたね(笑)。居酒屋ムロタのシーンでの亀岡の些細な変化は、安田さんがその場で作ってくれました。"内面を意識した"と以前インタビューで答えたのは、役者まかせにせずに監督がちゃんと作れよ、と自分に対しての戒めで言ったのかもしれませんね......(笑)。繋がった映像を見ると、現場では気付かなかった部分もあり、安田さんはそこに流れる時間とともに、ちゃんと表現してくれていたんだなと実感しました。小説の中の亀岡のイメージは一度捨てて、安田さんの中から彼自身の亀岡を見つけるというのが撮影の時の目標でしたから、安田さんのおかげで到達できましたね」

──三田佳子さん演じる松村夏子が「あなたの中に流れている時間が映画なの」と深く語るシーンがありましたが、横浜監督自身、このセリフを聞いて"映画の時間"の捉え方に変化はありましたか?

「舞台と違って、映画というものは時間の凝縮なんですよね。映画は莫大な時間をかけて撮っているものを無理矢理繋げて、新たな時間を構築しています。"これ、あきらかに繋がっていないでしょ"というものをあえて繋げることもできるので、監督は時間の魔術師だと思いますね(笑)」

──亀岡拓次は周りから愛されるキャラクターですが、監督がこれまで観た映画の中で、愛したキャラクターはいますか?

「フランソワ・トリュフォー監督の『映画に愛をこめて アメリカの夜』という映画があって、これも『俳優 亀岡拓次』と同じく映画を作る人たちが主役の作品なのですが、ジャン=ピエール・レオ演じるアレクサンドルが、子どもみたいにワガママで、常に人に迷惑をかける役なんです。彼を見て、嫌なヤツや変なヤツほど映画の中では輝けると思いましたね。映画は人を救うというか、社会のはみ出しものや嫌われ者をちゃんと輝かせるんだってすごく思いました」

──亀岡が実在したら、どういった役をあててみたいですか?

「考えた事なかったですね(笑)。殺人鬼の役ですかね。いい狂いっぷりを発揮してくれると思います」

──映画界から注目され続けている横浜監督ですが、憧れた監督は誰ですか?

「憧れは、台湾の候考賢(ホウ・シャオシェン)監督ですね。彼の初期の作品では、素人の役者を使っていることが多いんですが、とっても上手なんです。彼の作品があまりにも凄すぎて、素人の役者にものすごく魅力を感じるんですよ。私も学生時代、素人を主人公にした作品を撮っているんですが、自分も素人でこんな風に映画を作れるのでは?と勘違いしてしまうような、魔法にかけられたような衝撃はありましたね」

──候考賢の監督作で、特に好きな作品を教えてください!

「『風櫃(フンクイ)の少年』ですね。この作品も役者経験が少ない、若い男の子が主演なんですけど、行き場をもてあました若いエネルギーが映っていて。彼の作品はポエムを感じることができて、とても好きですね」

横浜聡子監督、ありがとうございました!

(取材・文・写真/トキエス)

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『俳優 亀岡拓次』
2016年1月30日(土)よりテアトル新宿ほか全国ロードショー

監督・脚本:横浜聡子
主演:安田顕、麻生久美子、宇野祥平、新井浩文、染谷将太ほか
配給:日活
2015/日本映画/123分

公式サイト:http://kametaku.com
(c)2016「俳優 亀岡拓次」製作委員会

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横浜聡子(よこはま・さとこ)

1978年青森県生まれ。横浜の大学を卒業後、東京で1年程OLをし、2002年に映画美学校で学ぶ。卒業制作の短編『ちえみちゃんとこっくんぱっちょ』が2006年CO2オープンコンペ部門最優秀賞受賞。長編1作目となる『ジャーマン+雨』が自主制作映画としては異例の全国劇場公開。2008年『ウルトラミラクルラブストーリー』を監督。2011年には短編映画2作品『真夜中からとびうつれ』&『おばあちゃん女の子』。2013年は『りんごのうかの少女』が、ロンドンで開催された第21回レインダンス映画祭ではの横浜聡子特集上映で上映された。

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