選択肢がありすぎて買物につかれた現代人にモノを売るための方法とは?

なぜ「それ」が買われるのか? 情報爆発時代に「選ばれる」商品の法則 (朝日新書)
『なぜ「それ」が買われるのか? 情報爆発時代に「選ばれる」商品の法則 (朝日新書)』
博報堂買物研究所
朝日新聞出版
869円(税込)
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 皆さんは最近、買物をする際に「あー面倒くさい!」と思ったことはないでしょうか? 賢く情報収集しなければいけないというプレッシャー、豊富すぎる商品情報や選択肢、もっと得な商品があったと知る後悔......しまいには比較選択に疲れ果て、何が本当に欲しいものなのかわからなくなる――。あまりに情報が増えすぎ、複雑化した現代において、こんなふうに「買物が面倒だ」というストレスを感じている人は少なくないことと思います。

 そんな中で企業が生活者に商品・サービスを選ばれるにはどうすればよいのでしょうか? 今回ご紹介するのは、購買行動起点でのマーケティングを実践・提案する「博報堂買物研究所」による、『なぜ「それ」が買われるのか?』という書籍。本書では、これからは「生活者の選ぶ労力を削減しつつ、その人にとって魅力的な商品/サービスばかりに絞られた<枠>の中から商品を吟味する楽しみを同時に提供する」ことが大事だと提唱。そしてこの仕組みを"「枠づくり」戦略"と名付け、買物に浸かれた現代人にモノを売るための方法を公開しています。

 この「枠づくり」戦略ですが、

①「これでいい」として選ばれる商品・サービス(積極的妥協)
②「これがいい」として選ばれる商品・サービス(生活発見を提案する)
③「これしかない」として選ばれる商品・サービス(消費だけでなく参加できる)

の3つの「枠」のどれかに当てはめて考えられるそう。たとえば①は「こだわり過ぎない、けれど一定水準のクオリティを担保しているから選べる」という枠づくり。その成功事例のひとつとして「ほけんの窓口」を挙げています。

 全国に600店舗以上を構え、約35社の保険商品をあつかっている「ほけんの窓口」では、「ここに相談に来れば、専門知識を持ったスタッフと相談しながら商品をフラットに比較して自分に適した商品を選べる」仕組みになっています。複雑な買物であっても顧客が「これでいい」と納得して選べるまでに「学べる買物」を提供しているというわけです。

 続いて②は「生活者が明確に言葉にできない生活欲求に対して『生活発見』を提案する」という枠づくり。栃木県内でその名をとどろかせているというサトーカメラはその好例だといいます。

 サトーカメラの強さの秘密は写真への興味を生み、育てる販売・接客スタイル。お店では、顧客は写真データを表示するモニターの前に置かれたソファにゆったりと座り、アソシエイトと呼ばれる店舗スタッフと会話をしながら写真を選び、それをプリントして形にするのだとか。このサービスは好評で、これがきっかけとなって、さらに「どうせ撮るならもっと綺麗に思い出を残したい」と高価格な一眼レフカメラなどに興味を持ち始める顧客も多いといいます。これはまさに自分ひとりでは気づけなかった「写真のある生活」の喜びを発見できる「枠づくり」であり、写真のプリントを入り口にさらなるビジネスチャンスを生み出しているといえます。

 そして最後に③。SNSの登場と普及により、見ず知らずの、けれど同じ好みを持つ人とつながることができる現代。旧来のコミュニティにとらわれない気軽な参加の形が喜ばれ、「消費者自らが参加できる」という枠づくりが生まれているといいます。

 その「参加できる」消費を顕在化したもののひとつが「AKB48」。それまでテレビの中の憧れの存在だったアイドルを「会いに行けるアイドル」としてAKB48専用の劇場を作る。投票権を入手し、推しメンに投票するという「AKB選抜総選挙」を実施する。これらはまさに生活者の「参加」型の消費への欲求の高まりをわかりやすく表したものといえるでしょう。

 「これしかない」枠を生み出すのは一般的な企業にとっては非常にハードルが高いものですが、成功するための一歩として「生活者が自分の人生の一部を差し出してでも『参加したい、応援したい』と思える企業と生活者との『共通の目標づくり』が必要だ」としています。

 ほかにも本書ではさまざまな事例を用いながら、生活者が選ぶための"「枠づくり」戦略"を提案しています。情報は多すぎるのにモノは売れない現代において、新たな時代のマーケティング指南書として参考になるに違いありません。

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