くりぃむ有田の"ミッドフィルダー芸"とは?~『THE 芸人学』

THE 芸人学 スゴい!お笑い 戦国時代をサバイバルする30人の成功法則
『THE 芸人学 スゴい!お笑い 戦国時代をサバイバルする30人の成功法則』
ラリー 遠田
東京書籍
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 群雄割拠の時代を迎えたお笑いの世界。毎日のように新しいスター芸人が現れては、あっという間に消えていきます。芸人を目指す若者の数も年々増加しているようですが、そんな時代に何年もテレビに出続けて、世間にその名が知れわたるような芸人はトップクラスの逸材ですが、果たして彼らは偶然や運だけで売れたのでしょうか。

 芸人同士の熾烈なポジション争い、自分のキャラの売り込み、企画の立ち上げ、他のタレントやスタッフとの交流と、広い視野を持って自分自身をプロデュースする才能を磨きあげていかなければ、成功はおろか生きのびることもままならないのが芸能界。
 
 しかし、芸人がそれらの成功の秘訣を公にすることはありません。それはお笑いを生業としている人間にとって、一種の「企業秘密」だからです。
 
 そんな各芸人の企業秘密を、お笑い評論家のラリー遠田氏がロジカルに読み解いた『THE 芸人学』では、お笑い戦国時代を生きる30人の芸人の成功方法が紹介されています。

 たとえば、くりぃむしちゅーの有田哲平。

 くりぃむしちゅーでまず有名になったのは、ツッコミ担当の上田晋也でした。深夜番組『虎の門』で、思わず「なるほど」と言いたくなるような豆知識を披露する「うんちく王」として活躍。一方、ボケ担当の有田は、じわじわ来る笑いをそっと仕込んでおくような独特の芸風が、少しずつ世間に理解されるようになり、後々頭角を現してきました。有田はボケ役ですが、自分から積極的に前にでて、がんがんボケまくっていくようなタイプではありません。どちらかというと、一歩引いた立場で、他の人の面白さを引き出すことを得意としています。
 
 彼らの漫才にもそういう芸風がみられ、有田の繰り出すボケは少し漠然としていて、それだけではわかりづらい場合が多いといいます。有田のそんなボケに対し、上田が言葉を多めに出して説明的につっこむことで大きな笑いを起こします。いわば、有田のボケは「やや足りないボケ」で、上田のツッコミは「やや過剰なツッコミ」。有田はわざと隙を作って、そこに上田の言葉がかぶさってくるのを楽しんでいるわけです。

 つまり有田は、自分のひと言だけを決定打にして見る人を笑わせたいという意欲がないともいえます。サッカーでいうと、シュートを打って得点を決めるフォワード志向ではなく、フォワードに正確なパスを出すミッドフィルダー志向の芸人です。

 単独で有田が番組に出ている時は、特に自分から主体的にボケを放つことはなく、他人をいじったり、泳がせたりして、自分が笑う側に回ることが多いとラリー遠田氏。有田の芸風はつかみどころがなく、ややわかりづらい部分もあるのですが、トークバラエティー番組『しゃべくり007』など、有田のまわりには笑える雰囲気が常にできており、実質、場の空気を支配していることも多かったりするのです。
 
 くりぃむしちゅーの有田哲平が成功している「企業秘密」は、笑いを生み出す"ミッドフィルダー芸"だったのです。

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