モノと距離をおきはじめたイマドキの若者~『欲しがらない若者たち』

欲しがらない若者たち 日経プレミアシリーズ
『欲しがらない若者たち 日経プレミアシリーズ』
山岡 拓
日本経済新聞出版
935円(税込)
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 「若者がかわった」、「以前の若年層と違う」。

 こうした声が多様なビジネスに携わる人から聞かれるようになったと、日経産業地域研究所主任研究員の山岡拓氏は話す。同研究所が実施した消費者向けアンケートの結果でも「最近の若者は車を欲しがらない。酒を飲まない。物欲がない。クリスマスでも恋人に装飾品を贈らないらしい」となった。

 年配のビジネスパーソンたちは、今の若年層に感じる違和感が、1980年代の"新人類"や90年代の"コギャル"たちに感じたものとは、質の違うものだととらえている。若き日の団塊世代やバブル期の若者、そして90年代のギャルたちも、声高に自身のライフスタイルを主張していた。しかし、今の若年層はいわば"静かな若者"。消費動向を集約すると、「車に乗らない。ブランド服も欲しくない。スポーツをしない。酒を飲まない。旅行をしない。恋愛に淡泊。貯金だけが増えていく」、となるのだそうだ。そして、これらはリーマンショック以前から見られる傾向で、なにも景気変調、雇用と所得の急激な悪化ではじまったわけではないのである。
 
 80年代の極めて高度な日本型消費社会に生まれた若者の周囲には、いつもモノがあふれ、「他者との違いを示す」記号とイメージが乱舞していた。その飽和のなかで育った世代は差異表示のための消費をしなくなり、従来の消費社会を超えていく存在となっている。
 
 現代の若者が目指すのは、実にまったりとした、穏やかな暮らしである。自宅とその周辺で暮らすのが好きで、和風の文化が好き。科学技術の進歩よりも経済成長を支える勤勉さよりも、伝統文化の価値を重視する。食べ物は魚が好き。エネルギー消費は少なく、意図しなくとも結果的に「地球に優しい」暮らしを選んでいる。大切なのは家族と友人、そして彼らと過ごす時間。親しい人との会話やささやかな贈り物の交換、好みが一致したときなどの気持ちの共振に、とても大きな満足を感じている。

 彼らは消費の牽引者になれなくとも、ある意味では時代のリーダーなのかもしれない。ただ、日本経済は彼らへの対応を急がなければならないといえる。なぜなら、彼らの満足が支出と結びついていないから。このまま、経済の低成長とモノあふれが大きく変わらなければ、続く世代もおそらくスローライフ型となってしまう。それが果たして日本にとってプラスなのかマイナスなのか、考えてみる必要があるのかもしれない。

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