インタビュー

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【イベントレポート】PARTY伊藤直樹さんが好きな映画7!

「あの人の一部は映画でできている」@アップリンクファクトリー

 10月31日、トークイベント「あの人の一部は映画でできている」(アップリンクファクトリー/渋谷)が行われました。良質な映画との出会いのきっかけ作りのために始まったシリーズイベントの第一回。ゲストとして登場した伊藤直樹さん(PARTY)は、カンヌ広告祭での金賞受賞歴も持つ日本を代表するクリエイティブディレクター。果てしなく遠い存在かと思いきや、実は大学時代はまったくモテないモラトリアム青年だったりと、映画部的にもシンパシーを感じる一面も(そこだけだが!)。というわけで、イベントの様子とともに、伊藤さんの好きな映画、思い出の映画をご紹介していきまっす!

人生史上最も衝撃を受けた監督は、ジョン・カサヴェテス
 静岡出身、少年時代はカルチャー的にはあまり恵まれていなかったという伊藤さん。その反動か、高校時に上京してからはひとりでミニシアター通いを始め、映画作りがしたい、マスコミにいきたいという思いが生まれたそうです。やがて進学した早稲田大学ではシネマ研究会に所属。「授業もろくに出ずに映画ばかり観たり作ったりしていた」らしい。
 そんな伊藤さんが「人生を変えられた」映画が、インディ映画の祖ともいわれるジョン・カサヴェテスの映画。
「特に有名なものは『アメリカの影』『フェイシズ』だと思いますが、カサヴェテスの何が衝撃かというと、圧倒的な即興演出の体温です。すごくドキュメンタリーっぽいんだけどフィクション。撮りながらシナリオをばんばん変えていくんです。それがのちにウォン・カーウァイなどに波及していくわけですが。このフィクションとドキュメンタリーの間のようなものに、当時すごく可能性を感じました。今でもそうです。インターネットの時代になり、まやかしや嘘っぽいものをみんな見抜いているから。少し真実みを感じながらも、エンターテイメントとして作られているというのがすごく重要だと思います」

寡黙な映画が好き。トラン・アン・ユン『青いパパイヤの香り』
「トラン・アン・ユン監督は、ヴェトナム系の移民でパリに住んでいる方。お洒落ですよ。アジア人の作る映画としては極めてお洒落です。画作り、アートディレクションがすごくしっかりしています。『青いパパイヤの香り』はロケのように見えますけど、全部セットなんです。画にこだわる人って、自分が思い描く画がなければ強引に作ったりするんですよね。僕自身もあまりおしゃべりな方ではないですが、寡黙な映画が好きです。しゃべらずに人の感情を描いているものが好き。トラン・アン・ユンはそれがすごく上手いと思います」

カンヌ金賞のあの広告にも影響を与えた、レオス・カラックス『ポンヌフの恋人』
 伊藤直樹さんが手がけた、0.02mmの極薄コンドームのCM「ラブ・ディスタンス」。遠距離恋愛中のリアルカップルを主人公にした、映画のようにロマンチックな90秒CMです。2009年のカンヌ国際広告祭では、日本人として13年ぶりの金賞受賞の快挙。(動画はこちら)この「ラブ・ディスタンス」に影響を与えたのが、レオス・カラックスの『ポンヌフの恋人』だそうで。
「作っている時は全然意識してなかったのですが、あとで振り返るとポンヌフのあのシーンに似ているなと思ったりはしました。身体的な表現というのが僕はすごく好きなんですが、ポンヌフはそれがものすごく優れている。橋の上で自分の手のひらをピストルで撃ち抜くシーンがありますが、あれは相手がいなくなっちゃって寂しくてたまらないから撃ち抜くんです。そういうのがたまらない。もしくはふたりが橋の上でダンスをしていて、後ろで花火がどっかんどっかん打ち上がっている。"お前のことが好きだ!"って言わなくても、花火がセレブレートしてくれてるんです。そういう身体的な、非言語的な表現が好きですね」

モテなかった大学時代の恋人。ジャン=ジャック・ベネックス『ベティ・ブルー』
「大学時代は観念的なことを考えていたり、モラトリアムだったのでモテなかったんです。だから映画と恋愛していたような感じで、恋愛映画ばかり観ていました。それに翻弄されたい恋愛欲というのがすごくあって、好きな映画はだいたい女性が男を翻弄するもの。ベアトリス・ダルは当時ディーバと言われていましたが、悪魔性ですよね。そういう女性に当時は惹かれました。今も好きですけど」

好きすぎてロケ地に行った。ジェーン・カンピオン『ピアノ・レッスン』
「素晴らしい作品ですよね。音楽を手がけたマイケル・ナイマンは、映画音楽家として一番好きな人でもあります。この映画が好きすぎてニュージーランドのロケ地に行きました。ピアノが置かれたであろう浜辺で、僕がピアノになったんです。ただ景色はちょっと違っていた。いい雰囲気ではあったけど、たぶんレタッチしてますね。この映画もしゃべらないのがいいんです。主人公はしゃべれないという設定。しゃべらないのにすごく情緒的。そういうものの方が信じられるんです。こういった作品を観て勉強していくうちに、『ラブ・ディスタンス』もそうなったのかなと思います」

奇跡だと思う。ウォン・カーウァイ『ブエノスアイレス』
「1000回ぐらい観ましたwなぜこんなにゲイカップルが美しいんだろう。ウォン・カーウァイは現代の監督の中では是枝さんと並んで即興演出を愛している監督。そしてクリストファー・ドイルは、ものすごくデザインの効いた絵を撮る。即興演出とよくデザインされているというのは二律背反のもの。役者がどっちへ行くかわからないとカメラが不安定になるから、普通は構図が甘くなるんです。そんなことをスーパー高次元でやったのが、ウォン・カーウァイとクリストファー・ドイルなんです。このふたりは奇跡ですね。また極めて個人制作的で、トニー・レオンとレスリー・チャン、クリストファー・ドイルとウォン・カーウァイが4人でたぶん粘って、何かが起きるまで待つという作り方をしていると思うんです。こういう映画の作り方には憧れますが、なかなかできる芸当じゃないと思います」

描きたいことが信じられる。ラース・フォン・トリアー『ダンサー・イン・ザ・ダーク』
「トリアーも即興演出を支持している人。『ダンサー・イン・ザ・ダーク』では、ドキュメンタリー的な要素と極めて作られた世界を同居させるということを、ウォン・カーウァイとはまた違った形で表現しています。ただ痛みばっかり描きすぎて僕は体が痛くなっちゃうので、相当観る覚悟はいりますが、描きたいことというのがすごく信じられる監督だなと思います。それにトリアーは確信犯的にいじわるな監督で、ビョークを徹底的に追い込んだんです。カメラの前の女優に演技をつけるだけでなく、嫌な追い込み方をするような作戦をするのも演出の一部。それぐらいやらないと、あそこまでのものは映像に出てこないんでしょうね」

映画を観て、自分を知る。映画は財産だ!
 最後に、学生時代は1日4本のペースで映画を見続けていたという伊藤さんの、モラトリアムで素敵なコメントを紹介します。映画はたくさん観た方がいい!
「大学時代に映画を観ていた、作っていたというのは、自分がどういうものが好きなのか、どういうものを作りたいのかを定める時期だったと思います。自分がどっちに行きたいのか......つまりヒッチコックは超面白いけど、青いパパイヤの方が好きだなっていう。そういうことを自分のマップの中にプロットしていくんです。でもなかなか見えないから、ふらふらしながらずーっと探っていたんですよね。でも当時の経験はすごく大きな財産で、辞書のようになっていますね」

(取材・文/根本美保子)

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