あの夢枕獏も大絶賛! 異端クライマー兼作家・宮城公博の「規格外」の魅力とは
- 『外道クライマー』
- 宮城 公博
- 集英社インターナショナル
- 1,728円(税込)
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今、注目の若手クライマー・宮城公博さん。日本国内でトップレベルのクライミング能力を持つだけでなく、冒険記を山岳雑誌『岳人』に寄稿するほか、アウトドア雑誌『ランドネ』にもコラムを執筆するなど、書き手としても高い評価を得ています。
3月25日発売の処女作『外道クライマー』(集英社インターナショナル刊)では、世界遺産「那智の滝」の登攀事件(2012年7月15日に軽犯罪法違反容疑で逮捕)など、宮城さんが冒険への道を突き進む契機となった事件や、その後の冒険にまつわる数々のエピソードが満載。探検家でノンフィクション作家の角幡唯介氏、山岳小説の旗手・夢枕獏氏ら"業界の大物"も同書を絶賛しているとか。
今回は、そんな宮城公博さんにお話を伺いました。
* * *
――アルパインクライマー、地域探検家、登山家、あるいは沢登りがメインの「沢ヤ」など、いろいろな肩書で呼ばれている宮城さんですが、ご自身は、どの肩書が一番しっくりきますか?
強いて言うなら、「クライマー兼沢ヤ」ですかね。自分で「登山家」「冒険家」と名乗るのは、嫌なんです。
――「登山家」と呼ばれることに抵抗があるのはナゼですか?
イメージが悪いですからね。登山家そのものが悪いと言っているわけではなくて、メディアに頻繁に登場するいわゆる"登山家"の印象が良くないので、誤解されたくないし、一緒にされたくない気持ちです。
――というと?
メディアに露出する登山家って、ちょっと意地悪な言い方をすると、全然大したことやっていないのに、すごい冒険を達成したかのように見せてしまっている人が多い。たとえるなら、100メートル走で10秒を切る人を差し置いて、20秒台で走っている人が登山界の代表面しているような感じです。本人にその気はなくても、いわゆる"マスコミ受け"する分かりやすい登山家がチヤホヤされる風潮には、うんざりします。たとえば●●さんとか、■■くんとか。
――たしかに、その方々はメディアでよく目にしますが......。
もちろん、そういう登山家がダメとは言いません。環境保護など社会的意義がある活動をされている方もいて、それはそれで素晴らしいこと。しかし、純粋に登山の内容だけを切り取ったら客観的な登山記録としてたいしたことをしていない人が、マスコミによってさも凄い人のように風潮されることは健全な状態と言い難い。登山家と呼ばれている本人からすれば、登山者として実力以上に過度に持ち上げられることやこうやって批判にさらされるのも辛いでしょうね。とはいえ、アピールに長けた商業的登山家ばかりが注目を浴びていては、本当に評価されるべきクライマーが埋もれてしまうという、危機感というか忸怩たる思いがあるんですよ。まぁ、要は「俺らの方がよっぽどいい登山しているのに」っていう嫉妬が大きいんですけどね(苦笑)。
――そういった忸怩たる思いもあって、今回、筆を取った側面もあるわけですか?
それはまぁ、そうですね。この本の中では、自分も含めた「沢ヤ」を、「沢登りに異常なこだわりをもった偏屈な社会不適合者」と定義していますが、そもそも、沢ヤってメディアに登場することも少ない絶滅危惧種。自分がやっているからには、沢ヤを絶滅させたくないし、今回本を出すチャンスをいただいて、登山界のそういう現状を変えたい気持ちもありました。
――宮城さんが一躍注目を集めたのが、2012年に、熊野那智大社の御神体である瀑布「那智の滝」をロッククライミングして逮捕された騒動です。世間を賑わせた事件の顛末も、著書ではリアルに描かれていますね。
あれは、別に世間に注目されようと思ってやったわけじゃないんですよ。沢ヤとして純粋に、「まだ誰も登っていない、日本一の滝を登りたい」と思っただけ。熊野那智大社の宮司さんはじめ地元の方々にご迷惑をかけたことは非常に反省していますし、7年間務めた福祉施設の職を失い、社会的にも制裁を受けました。それ以降、定職には就かず、単発労働で生計を立てるという沢登り中心の生活を送っていますから、今振り返れば、良くも悪くもあれが沢ヤとして大きなターニングポイントだったんでしょう。
――逮捕事件もさることながら、他のエピソードの描写でも、文章の端々から反骨精神が伝わってきます。
歴史的に見ても、登山ってそもそも社会に背を向けるような行為ですし、反骨精神が本質にあるんですよ。特に沢ヤがやっていることって、日の当たらない、泥臭い世界。たまに山をやってる若い子から「宮城さんに憧れています!」みたいに言われることもあるんですが、もうズレてますよね。そりゃそう言われると悪い気はしないですし、うれしい気持ちもありますよ。だけど、クライミングには、反骨精神が大事なのに「●●さんに憧れています、どうしたら●●さんみたいになれるんですか?」っていう姿勢からは、ハングリー精神のかけらも感じられないじゃないですか。「お前よりいい登山してやるぞ」っていうガツガツした気持ちじゃないと、いいクライミングはできないと思います。
――宮城さんはクライマーとしてだけでなく、書き手としても高く評価されていますね。雑誌の連載では、太宰治、三島由紀夫など、名だたる文豪の名前も出てきますが、特に影響を受けた1冊、というのがあれば教えてください。
うーん、それはないですねぇ。僕、そもそもあんまり本読まないんですよ。
――ええ!そうなんですか? 本を読ませていただく限り、てっきり読書家かと思ってました。
全然。生まれてこのかた文豪の作品なんて読んだことないし、新刊のハードカーバーなんて1回も買ったことないですよ。(建前上、好きな作家と公言している)沢木耕太郎さんや、クライマー・山野井泰史さんの著書ですら、立ち読みで済ませたほどです。正直、内容も覚えてないです。あ、さすがに『神々の山嶺』(夢枕獏著)は買ってますよ! BOOKOFF(ブックオフ)で、100円くらいで売ってた文庫本でしたけど。
――それであれだけ書けるのが不思議なくらいです(笑)。最後に、本のアピールポイントを教えてください!
この本は、1人でも多くの人に山の世界に興味を持ってほしいと思って、専門用語なども極力使わずに、登山を知らない人でも楽しめるノンフィクションのつもりで書きました。また、芯がない(くせにモテる)オシャレ山男子に違和感を持つ人とか、真実に全然迫らないメディアの報道姿勢に憤りを感じる人、わかりやすくキレイにパッケージングされたものだけに飛びつき、泥臭い部分を見て見ぬ振りするような風潮に怒りを感じる人にも読んでほしいですね。
<プロフィール>
宮城公博(みやぎ・きみひろ)
1983年、愛知県生まれ。クライマー兼沢ヤ、ライター、登山ガイド、NPO富士山測候所職員。2012年、那智の滝登攀での逮捕により、7年間勤務した福祉施設を辞職。2013年、立山称名滝冬期初登攀、2014年、立山ハンノキ滝冬期初登攀をはじめ、未踏の地、初登攀にこだわって山行を続ける。映画『エヴェレスト 神々の山嶺(いただき)』には、山岳スタッフとして参加。文章力には定評があり、『岳人』(ネイチュアエンタープライズ刊)に寄せているほか、現在『ランドネ』(エイ出版社刊)に好評連載中。「セクシー登山部」では「舐め太郎」として知る人ぞ知る存在。