ドナルド・フェイゲンが高校時代のオタクぶりを語る
- 『ヒップの極意 EMINENT HIPSTERS』
- ドナルド・フェイゲン
- DU BOOKS
- 2,160円(税込)
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ウォルター・ベッカーと共にバンド「スティーリー・ダン」のメンバーとして活躍し、解散後、ソロとなってからも世に名盤を送り続けているドナルド・フェイゲン。そんな彼の自伝的エッセイ集『ヒップの極意』が、奥田祐士さんによる翻訳で刊行されました。
フェイゲンの独特な文体によって、自身の生い立ちから学生時代、60歳を超えた現在へと至るまでの、音楽や小説、ラジオや映画、人間関係等の遍歴が綴られている本書。ジャズやSFとの出会い、ニューヨークのクラブでの経験等が、当時の時代の熱を携えて鮮やかに伝わってきます。
一つ一つのひねくれたユーモアに満ちたエピソードの数々からは、ドナルド・フェイゲンという一人の人間が形成されていく過程を垣間見ることも出来ます。例えば、「たぶんわたしはいまだに青春時代のほうが、今現在やその間の半世紀よりも、リアルに感じられてしまう人種のひとりなのだろう」と語るフェイゲンですが、まさにそうした青春時代とも言える自身のハイスクール時代については、次のように述べます。
「わたしはハイスクール時代の大半を家ですごし、同級生たちがみんなスポーツのイヴェントに出たり、ガソリンスタンドで盗みを働いたりしているあいだに(わたしは本気で彼らがなにをしているのか知らなかった)、「サタデイ・レヴュー」(定期購読していた)のページをめくったり、プリンストンの地下書店から盗んできた分厚いドーヴァー社のペーパーバックを読んだり、ピアノの前に座ってレッド・ガーランドのレコードからフレーズをコピーしたりしていた。(中略)平たくいうとわたしは最上級のオタクであり、悲しいほど孤独だった」
こうした一節からも、フェイゲンが若い頃から多方面に渡るカルチャーに深く親しみ、影響を受けたことが伝わります。また同時にそれらのエピソードを知ることは、スティーリー・ダンそしてソロで発表された数々の楽曲の背景を探る手がかりにもなるかもしれません。
その楽曲同様に、こだわりの見られるフェイゲンの文章と魅力的なエピソード。スティーリー・ダン、そしてドナルド・フェイゲンのファンのみならず、多くの方にも楽しめる一冊となっています。