子どもと大人の「非対称の関係」をつき崩した注目の教育「レッジョ・アプローチ」

子どもたちの100の言葉
『子どもたちの100の言葉』
レッジョ・チルドレン
日東書院本社
4,320円(税込)
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 世界の教育関係者たちが熱い眼差しを注いでいる、北イタリアの小都市で推進されてきた幼児教育があります。熟慮された方法で、子どもの知性と感性と想像力の可能性を開き、子どもたちが相互に学び育ち合う環境と関係を築いた「レッジョ・アプローチ」です。

 イタリアにあるレッジョ・エミリア市の乳幼児施設で40年にわたり実践されている歴史ある教育アプローチで、1991年に『ニューズウィーク』誌が、レッジョ・エミリアのディアナ幼児学校を「世界で最も前衛的な学校」と紹介し一躍有名になりました。それ以降、世界中の幼児教育研究者と教師の関心の焦点となっています。

 レッジョ・アプローチの包括的な基盤となった名著を、増補改訂版として復刊した書籍『子どもたちの100の言葉』のなかで、学習院大学教授・東京大学名誉教授の佐藤学氏は、同教育をこう説明しています。

 「レッジョ・エミリアの教育は、子どもは未熟、大人は成熟、子どもは知らない存在、大人は知っている存在という子どもと大人をめぐる非対称の関係を内側からつき崩して、創造性の能力と学び生きる権利において、子どもと大人は対等であることを宣言している」(佐藤学氏)

 同市の幼児教育は変わっていて、各幼児学校と乳幼児保育所には、「ペダゴジスタ」(教育学者)と呼ばれる教育主事と「アトリエスタ」(芸術家)と呼ばれる芸術教師が配置され、創造性の教育において中核的役割を果たしています。なかでも、アトリエスタは、大学で芸術を専攻した教師であり、教師と子どもの創造的活動を支援する役割を担っています。

 学校空間はさらに特徴的。学校の中心には、食堂と各教室に繋がる広場を用意し、その広場と連続して創造的活動を促進するアトリエが配置されているのです。広場は、イタリアの都市空間と同じように、人々が交わる公共空間になり、アトリエは表現活動を交流し交歓する舞台となっています。

 また、教室には二つのミニアトリエが用意されており、一方は明るい空間。もう一方は暗い空間となっており、暗い空間では光と影をモチーフとする表現活動が展開されるのです。どの教室も多くの観葉植物によって包まれており、静かなBGMが子どもたちの柔らかな感覚を引き出します。アトリエと教室には、「素材パレット」と呼ばれる実に豊富な素材(自然物と人工物と画材)が所狭しと並べられ、それら数百種にも達する素材が端整に分類されて美しく配置されています。さまざまな葉や木の実や小枝、動物の骨や何種類もの貝殻、細かく色別に分類されビンに詰められた砂、それら自然の素材の一方で、メタルの輝きを放つメカニカルな素材も豊富。金属の破片をはじめ、ボルトやナット、針、針金などが創造的な表現活動の素材として準備されているのです。このような自由な空間が、子どもたちの創造性を高めるのです。

 その他にも、レッジョ・エミリアには子どもを育てるための工夫が盛りだくさん。大人よりも豊かな子ども想像力や創造力。大人の凝り固まった考えでこれらを教えようとすると、子どもたちは窮屈に感じることがあるのかもしれません。大切なのは、子どもたちの感性の解放と、大人たちの深い理解なのです。

 同書は、「子どもの可能性とその尊厳のために心を砕く子どもたちと大人たちへの讃歌である」と、佐藤氏はいいます。

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