見渡す限りの森・アート完備・トゥクトゥク式送迎サービス......R不動産が「団地」の魅力を再発見

団地に住もう!  東京R不動産
『団地に住もう! 東京R不動産』
東京R不動産
日経BP社
1,944円(税込)
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 「倉庫っぽい」「眺望GOOD」「レトロな味わい」「オマケ付き」と、グっとくる物件カテゴライズワードが並ぶ、不動産ウエブサイト「東京R不動産」。新しい視点で東京の物件を発見し、紹介する人気サイトです。

 同サイトの仕掛け人・馬場正尊氏は、大学院まで建築を学んだ後に、一度、広告会社・博報堂に入り、その後、雑誌の編集に携わり、さらに都市の勉強をしたうえで建築家になったという、一風変わったキャリアを持つ建築家。「憧れの森に暮らす」など、雑誌っぽいコピーは、馬場氏のキャリアが影響しているといえるでしょう。

 そんな同サイトからは、書籍『東京R不動産』『東京R不動産2』の2冊が出ており、こちらも評判。現在の中古物件リノベーションブームの火付け役になったとも言われています。そんな東京R不動産が、新たな価値「団地」を発見しました。書籍『団地に住もう!東京R不動産』のなかで、団地住まいの「幸せな風景」を紹介しています。

 「昭和のスタイルだと思われてきた団地。しかし時代が一巡して、その空間や設計思想は新鮮に見えてきます」

 「50年前に団地が初めて登場したとき、日本の人口が一億人程度。敷地もゆったり、周りには公園や遊び場が散りばめられていました。その後、日本のマンションは効率性や経済性が重視されるようになって、いつのまにかミシミシと高密度に、味気なくなっていきます。しかし2050年、人口はその頃に戻ると予測されています。もはや高密度に、小さな空間に人間を詰め込む必要もないのです。団地くらいの密度がちょうど良くなってくるのです」

 こう語るのは馬場氏です。「3.11」を経験した私たちにとって、コミュニティーとエネルギーは大きな関心事に。そして、それらが住まいにそろっていたのが「団地」だと言えるかもしれません。ご近所づきあいがあり、エアコンがない。昭和の団地では当たり前とされていた風景です。向かい合う二住戸で階段室を共有するのは、お互いの気配をうっすら感じながら生活するため。また、南北に風の抜ける窓と部屋の位置は、エアコンのない時代に考えられた、部屋内に風を通すためのアイデアなのです。

 「毎日が自然浴」「見渡す限りの森」「夏祭りと花火大会」「アート完備」「商店街に居間が出現」「トゥクトゥク式送迎サービス」......『団地に住もう!東京R不動産』には、このようなコピーで物件が紹介されています。

 これまで同様、ユニークな物件がたくさん紹介されている同書ですが、編集を担当したスタッフからは、こんな声もあがっています。

 「一冊の本の撮影のあいだに、こんなにたくさん木を見たなんていうことは今までなかった。団地へ行ったのに、なんだか森に行って帰ってきたような気持ちになったことが何度もあった」

 また、カルチャーショックもあったという。それは団地の夏祭りを取材したときのこと。

 「僕だって夏、打ち上げ花火はできれば観たい。でも行き帰りのすし詰め電車のことを想うとげんなりしてしまうから、このところ花火大会に足を運んでいない。けれども取材したその団地の人たちは、自分の家の玄関を出て、ぶらぶらと数分歩いていった先のグラウンドで、大きな打ち上げ花火を堪能していた。あれがあの人たちにとっては普通なのだろう」

 生活の楽しさや豊かさのヒントが、「団地」のなかにあるのかもしれません。

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