もしも恋人が亡くなったら、その悲しみをお金にするといくら?
- 『不愉快なことには理由がある』
- 橘 玲
- 集英社
- 1,512円(税込)
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想像してみてください。もし、あなたの恋人や配偶者が突然事故で亡くなったとしたら...? あなたは悲しみに暮れ、しばらくは生きていく気力をなくしてしまうかもしれません。
では、その心の傷みをお金に換算するといくらになるでしょうか。
答えは、3800万円。「心の痛みに値段をつけるなんてバカバカしい」と思う人もいるかもしれませんが、これは「幸福の計算」という立派な経済学の一分野です。
その他にも、「独身の人が結婚したとすると、その直後の喜びは43万円の宝くじに当たったのと同じ」、「子どもが生まれるのは、31万円を道で拾った喜びに等しい」など、感情を金額にするとこのようになることがイギリスの研究でわかっています。
これらの金額を高いと思うか、安いと思うかは当然個人差があると思いますが、結婚や子育ての苦労などを踏まえた根拠があっての金額なので、案外、納得できるかもしれません。
ですが、いくら経済学といっても実際に感情に値段をつけることはできません。例えば、裁判。日本の裁判所はこれまで離婚などの場合を除いて、精神的苦痛に対する慰謝料をほとんど認めてきませんでした。
しかし、「一見まともなこの考え方は、原発事故のような巨大災害が起こると、理不尽なものになってしまいます」と経済小説作家の橘玲さんは著書『不愉快なことには理由がある』のなかで指摘しています。
強制避難させられた人たちも代わりの住居を用意されると"損害"がなくなってしまっていましたが、現在では精神的な賠償も認められるようになりました。しかし、基準がないために加害者と被害者の主張は大きく食い違ったまま...というのが現状のようです。
これに対し、橘さんは「賠償金額が有限である以上、公平で平等な賠償のためにはなんらかの『幸福の計算式』が必要」と言います。確かに、これから二度とあのような事件が起きないとは限りません。現にこれまで日本ではたくさんの災害が起こり、その度に加害者と被害者の間で損害賠償をめぐる裁判が行われてきました。「人の感情に値段をつけることはできない」というまっとうな意見が、これまでにたくさんの人を苦しめてきたのは確かなことなのです。
「気持ちはお金で買えない」。それはもちろんです。しかし、それでも無理矢理値段をつけなければならないのが、今の世の中なのです。