恋愛を禁じられた吉原の遊女たち「女による女のためのR-18文学賞」受賞作『花宵道中』
- 『花宵道中 (新潮文庫)』
- 宮木 あや子
- 新潮社
- 637円(税込)
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恋愛禁止。脱退は難しく、勤めあげたとしても想い人が自分を待っていてくれるわけではない...。どこかのアイドルグループのようですが、舞台は江戸末期。吉原に生きる遊女たちの話です。
「生きてゆくのは、諦めちまえばそんなに辛くないよ」
江戸時代、西洋から訪れた公使たちは、西洋とは異なり高い格式と市民権を得ている吉原の遊女たちに驚いたそうです。歌や踊りだけに留まらない高い教養を仕込まれる一方、仕事として男に抱かれることに慣れた女たちの心は緩やかに去勢されていきます。
そんな生活の中、初めて好きになった男の前で客に抱かれる朝霧、遊女デビューすることに反発を覚えながらも、想い人を胸に抱きながら初見世の夜を過ごす茜。病気で死ぬ女があり、男と逃げる女があり、身を投げた女があり。そして残された八津は、髪結いをしてくれる三弥吉との逃避行を何度も夢見ながらも残されたものの義務を全うすることを決意し、想いを殺して遊女の道を選びます。そんな6章の短編が絡み合う傑作『花宵道中』。
ある短編に出ていた脇役が、他の章では主役としてスポットライトを浴びています。"どんな人生もドラマにあふれていて気高いのだ"という徹底した人間への尊厳が存在するからか、その性描写は美しく、この作品を一段上へ押し上げているように思います。
安野モヨコの「さくらん」で築かれた吉原の世界が、また宮木あや子の手によって花開きました。遊女は江戸時代のアイドルであり、ファッションリーダーとしての役割も担っています。名古屋では10月14日に「おいらん道中」が行われ、華美な着物姿のおいらんが練り歩きました。栃木でも歌麿の浮世絵に描かれるおいらんに扮する「歌麿まつり」が開催されました。江戸の恋愛と人情の歴史は今後も様々な形で継承され、物語に昇華されていくのでしょう。
私はこう生きていく、という決断の潔さがすっきりした読了感を与えてくれる「女による女のためのR-18文学賞」受賞作、秋の一冊にいかがでしょうか。