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アノヒトの読書遍歴 Aimerさん(前編)

本に学び、本に助けられた思春期


 プロフィールや素顔が明かされていないシンガーソングライターのAimer(エメ)さん。昨年2011年のデビュー以降、そのハスキーで時に甘さを見せる"DRY & SWEET"な歌声が話題を呼んでいます。そんな彼女の人格を形成した幼少期から思春期の読書体験について伺いました。

 子どもの頃は手塚治虫さんの『火の鳥』をよく読んでいました。小さいときの私が想像もしていなかった未来や宇宙の話など、とても衝撃を受けました。たとえば、永遠の命を欲しがっていた人が、それを手に入れてしまった時に、あまりの孤独さに「なんでこんなもの欲しがったんだろう」って後悔する話があるんですが、子どもながらにすごく心に残っていて、「みんなが願うようなものが本当はすごく怖いものだった」ということを思い知りましたね。(Aimerさん)

 どんな子どもだったんですか?

 幼稚園のときから、友だちと遊ぶとうよりは幼稚園にある本を読んでいたと、両親から聞いています。小学校にあがってからも、登校したらまず一人で本を読むという感じでした。

 思春期に影響を与えた一冊は?

 中学校3年生か高校1年生くらいのときに、夏目漱石の『こゝろ』を読んだのですが、人間というのはみんな必ず孤独感を持っていて、それがずっとついてまわるものなんだっていう価値観が自分の中に生まれました。そんな風に世の中は、何もかもが不確かなものばかりなのに、それでも誰かを信じたり、好きになったりすることは、とても美しいことなんだなぁと思いました。その頃から歌詞や詩を書いていたのですが、不確かなものを肯定して、相反する矛盾というか人の感情の機微を書きたいと思うようになりました。

 15歳の頃、喉に異変をきたし、歌唱はおろか、会話すらできない状態になり音楽活動を断念された経験があるAimerさんですが、療養中に助けられた本があるそうです。

 声を失うってことが、自分にとって一つのアイデンティティーを失うようなものだったので、これからどうしたらいいんだろうって絶望感がありました。そんな時、J・D・サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を読んだんです。この本は思春期ならではの心の葛藤とか、純粋な気持ちを表現した本だったので当時、すごく共感しました。たとえ、アイデンティティーを失っても、「今は声が出ないかもしれないけど、また出るときが来るまで耐えよう」って思える心の支えになりました。

 次回は、Aimerさんのシンガーソングライターとしての仕事と本の関係についてお聞きします。お楽しみに!
 
《プロフィール》
Aimer(エメ)
幼いころから音楽に身近な環境で育ち、小学校でピアノを、中学からはギターでの音楽活動を開始。時に大人びた"乾き"を、時に子供のような"甘さ"を見せる"DRY & SWEET"なその歌声が秘かに話題を呼び、様々な企画へのゲストボーカル参加を実現。映画監督やアーティストなど、様々なクリエーターからその歌声が絶賛された。2011年、DefSTAR RECORDSよりメジャーデビュー。

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