早稲田大学の駅伝部復活のカギは? 力を持つOB会に渡辺監督がメス

駅伝流―早稲田はいかに人材を育て最強の組織となったか? (文春新書)
『駅伝流―早稲田はいかに人材を育て最強の組織となったか? (文春新書)』
渡辺 康幸
文藝春秋
734円(税込)
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 12月に入り、いよいよ箱根駅伝の季節がやってきました。今年の10月に行われた出雲駅伝では、東洋大学が初優勝。2位には駒沢大学、3位に早稲田がつけました。その順位が示すとおりに、今年の箱根駅伝は、「山の神」柏原竜二が主将となった東洋大学をはじめ、11月の全日本大学駅伝を制し、1万メートルで28分台の好記録をもつ選手が6人もそろう駒沢大学、そして、昨年、「出雲」「全日本」「箱根」の3冠を達成し、主力が多く残る早稲田大学の3校が、大会をリードする存在として注目されています。残り1か月となった今、各校は最終調整に余念がないところでしょう。

 早稲田大学は、今でこそ強豪校という印象がありますが、2004年の箱根駅伝では16位に沈むなど、低迷している時期がありました。そんな時代に若くして監督就任した渡辺康幸氏によると、当時はやる気がない、合宿所が汚いなど、「ないない尽くし」の状況で、とても勝てる組織ではなかったようです。

 そこで渡辺監督が取り組んだのは、「負の連鎖を断ち切ること」。その一つに無意味な伝統の廃止があったと、書籍『駅伝流』のなかで振り返っています。

 まず動いたのは、OB会の現場介入を遠慮してもらうことでした。同校のOB会というのは、まさにプロ野球の世界のフロントみたいな存在。現場に対して力を持っており、新しい監督を決めるのも、大学ではなく事実上OB会だったりします。「ここが硬直化すると、現場には決していい影響を与えない」渡辺監督はそう言います。

 定年退職して時間のできたOBたちは、早稲田の練習に顔を出すようになります。こうしたOBは、「俺らの頃はもっと走り込んだ」「暑い時間に給水を取らないで何キロも走った」などと根性論を語ったり、監督やコーチの指導と全く違う教え方をすることがしばしば。3か月に1回ほどあるOB会の会合で、勝てない理由を延々と説かれることもあったそうです。

 百害あって一利なしのこれらの問題を解決するために、渡辺監督はOB会会長に直接伝えることを決心。当時のOB会会長は、衆議院議員を経験し、日本陸上競技連盟の会長も務めていた河野洋平さんでした。渡辺監督は、OBの悪習を排除し、一切練習場に入ってこないような体制にしたいと、河野さんに訴えたのです。

 その結果、瀬古さんのような人は別にして、OBが現場に介入してくることはほとんどなくなったそうです。「OBからの応援は心強くもあり、不可欠であることは言うまでもありません。もしそれがなければ、早稲田で駅伝をやる意味はない、と言ってもいいと思います。OBの方々の存在があるから『伝統の重み』は増すのです」(渡辺監督)

 練習さえ滞ることがなければ、その重みを甘受したいと言う渡辺監督。しかし、現場とOB会の距離が近すぎると、弊害が多いのも事実です。伝統ある学校だけに、抱えてしまう問題だといえるでしょう。学校だけではなく、プロチームでも見受けられるこれらの問題。長く続く悪習を正すには、渡辺監督のような勇気ある決断のできる人材が必要なのかもしれません。

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