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映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画惹句は、言葉のサラダ。】第25回 映画館が閉館したり潰れる映画は、なぜ感動を誘うのだろうか?

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●『ニュー・シネマ・パラダイス』パラダイス座の場合。

 昨今ではパッケージ・メディアやら配信やら、映画を見る手段は色々あるが、「やっぱり映画は映画館の大スクリーンで」という人も少なくない。それには賛成。ただ映画館を経営することはリスクも負うし、色々と思う様に行かないことも多い。その最たるものが「観客が想定したほど入らない」ことと、突発的なアクシデントだ。このどちらかに見舞われた映画館は、残念ながら閉館、休館ということになってしまうのだが、映画館がなくなることは、元来センチメンタルで夢見ることが大好きな映画ファンの涙腺をいたく刺激するようだ。そんな純真(?)な映画ファンの好みを反映してか、映画館が閉館することを描いた映画には、感動的な作品が多い。

 例えば『ニュー・シネマ・パラダイス』。1989年12月に公開されたこの映画は、当時のミニシアター・ブームという追い風もあり、単館上映ながらヒット。イタリア・シチリアの田舎町にある映画館・パラダイス座で映写技師を勤めるアルフレードと、そこに頻繁に出没する少年トト。映画の楽しさ、面白さをパラダイス座で知ったトトは、成人した後、映画プロデューサーとなる。ある日、母親から電話があり、久々に帰郷する。彼を待っていたのは、映写技師アルフレードの死だった・・・。

 随所に流れるエンリオ・モリコーネの音楽は、頭の中で何度もリフレインするほど忘れがたい。やがてパラダイス座は火災で焼失し、アルフレードも視力を失ってしまう。トトはアルフレードの後を継いで再建したパラダイス座の映写技師になるが、成長した彼は、故郷を離れることを決意する。そんなトトに、アルフレードはこう言う。「自分のしていることを、愛しなさい」。アルフレードの葬儀のために30年ぶりに帰郷したトトは、朽ち果て、廃墟となったパラダイス座を目撃する。6年前、ビデオの影響で観客が減り、閉館したそうだ。アルフレードを見送った翌日、ダイナマイトで爆破されるパラダイス座。プロデューサーとなったトトは、再び都会へと戻っていく。

 その感動の名作「ニュー・シネマ・パラダイス」は、宣伝惹句もまた感動的だ。

 「映画から 夢が広がった 大切なぼくの宝箱。」

 「まるで宝物のように、そっと隠しておきたい・・
                     そんな映画です。」

 アルフレードの職場であり、トト少年の遊び場であった映画館を「宝箱」と表現し、そこで得たたくさんの夢を比喩として描く。その夢が何であるかは、具体的には語らない。それは観客ひとりひとりが感じれば良いことだ。

 映画惹句には、その作品の個性を強く打ち出した「攻め」の要素が強いものもあれば、作品の具体的な内容を明かさず、作品から漂う雰囲気やムードを強調する「守り」のものもある。「ニュー・シネマ・パラダイス」の惹句の場合は、圧倒的に後者だ。この惹句に造語やけたたましい「全イタリアが泣いた!!」「世界中で大ヒット!!」といったフレーズは似合わない。作品の持つデリケートな魅力を、優しい言葉でそっと包み込んだ、秀逸な惹句だ。この惹句なくして、この映画の大ヒットはなかったと言っても過言ではないだろう。


●もうひとつの『ニュー・シネマ・パラダイス』だが・・。

 その『ニュー・シネマ・パラダイス』には「3時間完全オリジナル版」という長尺バージョンが存在する。実はこちらのほうが最初に完成したもので、その後世界公開に使われたバージョンは、プロデューサーのフランコ・クリスタルディが編集したものだ。ジュゼッペ・トルナトーレ監督は来日した際、「3時間完全オリジナル・バージョンのほうが好きだ。でも国際版も良い出来だと思う」とコメントしている。その気持ち、よーく分かるぞ。監督たる者、自身の思い通りに作ったバージョンこそがオリジナル。例え世間の評価が低くても、我が子のように手塩にかけた作品だから、最も愛着があって当然。さりとて世界中でヒットした国際版も、「自分の意図したものではないが、世間が評価しているのならば、それはきちんと受け入れたい」ということなのだろう。しかしこの監督、「ニュー・シネマ・パラダイス」以外にヒット作がないけどさ。

 その「ニュー・シネマ・パラダイス/3時間完全オリジナル・バージョン」の公開時の惹句は、こんな感じ。

 「トトが忘れられなかったもうひとつの物語。」

 あくまで「こういうバージョンもありますよ」といった感じ。感動は1回だけで充分といったところか。


●『ラスト・ショー』ロイヤル劇場の場合。

 個人的な好みを言えば、映画館が潰れる映画なら『ニュー・シネマ・パラダイス』よりもこちらの方が好き。ピーター・ボグダノヴィチ監督の1971年作品『ラスト・ショー』。叙情溢れるアメリカ映画の傑作だ。この映画の日本公開時に使われた惹句がこれ。

 「1951年 テキサス州アナリーン
         変わるはずのものは 何もなかった・・・」

 そうなんです。映画の舞台になったのは、この惹句の通り1951年のテキサス州アナリーン。まあアメリカの田舎町ですな。そこに生きる高校生と大人たち。高校生に扮するのはジェフ・ブリッジス、ティモシー・ボトムズ、シビル・シェパードと、70年代初頭に注目された若き演技派たち。しかもシェパードはこの時ボクダノヴィチ監督とホットな仲だった。田舎町に生きる彼らの日常を静かに描いたこの作品は、当時の映画青年たちのハートを掴んだのである。この田舎街で映画館やビリヤード場など、娯楽施設を一手に経営するのが、少年たちの憧れサム・ザ・ライオン。ベン・ジョンソンが渋く演じるこのカウボーイは、少年たちがデートに利用する映画館ロイヤル劇場も経営しているが、サムの死によってその映画館も閉館せざるを得なくなる。最後の上映作品は、ボクダノヴィチ監督が尊敬するハワード・ホークス監督の『赤い河』。この映画は1948年アメリカ公開だから、それが1951年に上映されているあたりが、ロイヤル劇場のある街がいかに田舎であるかが分かる(あるいは名画座だったか)。

 ボグダノヴィチ監督が1951年という時代を選んだのは、この時期アメリカが大きく変わりつつあった時代だからだ。そのことは日本公開時の惹句にも現れており、サム・ザ・ライオンの死は、イコール・カウボーイの死。古き良き時代を生きた男たちの最後を意味している。ロイヤル劇場の最終上映を見ているのは、少年ふたりだけ。テレビジョンの普及により、オールド・カルチャーである映画が往年の勢いを失った描写もまた、時代の変遷を映し出している。


●南佳孝が宣伝惹句を書いた、『ラスト・ショー2』。

 実はこの『ラスト・ショー』には、続篇が存在する。同じ監督、同じ出演者たちが30余年後を描いた『ラスト・ショー2』がそれで、アメリカでは1990年、我が国は1991年夏に公開されている。ところがあまり評判のよくないことからか、未だDVDにもなっておらず、加えて配給した日本ヘラルド映画が既に存在しないとあって、幻の作品になっている。

 日本公開時に作られた惹句は、なんと『モンロー・ウォーク』などで知られるミュージシャンの南佳孝が書いており、前作の惹句と同様、叙情的で味わい深い惹句になっている。

 「風が吹いていた。名状しがたい 青春という名の風が・・・。
                  南佳孝
  そして、今、彼らは・・・」

 惹句作成者の名前が入っている惹句も珍しい。その割には公開時、話題にならなかったけど。

 実は筆者もこの第2作は未見だが、資料によるとサム・ザ・ライオンが経営していたロイヤルは、閉館したときのままアナリーンの街に放置されており、そこで最終上映『赤い河』を見たことをジェフ・ブリッジス演じるドゥエインが回想するシーンがあるという。こういう演出もまた、映画ファンのセンチメンタルな心を揺さぶるのでしょう。

 ボグダノヴィチ監督は、70年代初頭『ペーパー・ムーン』『ラスト・ショー』と、モノクロ画面のノスタルジックな作品で注目を集めた映画評論家出身の監督だが、70年代半ば以降は評価も興行も成功に見舞われず、にも関わらず今世紀においても『ブロンドと棺の謎』『マイ・ファニー・レディ』等、全盛期さながらのタッチの作品を監督している。

 『ニュー・シネマ・パラダイス』のトルナトーレ監督といい、映画館が潰れたり閉館する映画を撮った監督が、その後キャリアとヒットに恵まれないのは、世界中の映画館や興行関係者から呪われているからだったりして。

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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