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なりすましは意外と簡単!?『アイ・アム・キューブリック!』

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 つい先日、米人気番組『キャットフィッシュ』にドハマりしてシーズン1を一気に鑑賞しました。オンラインで知り合った相手に思いを寄せる若者たちが「プロフィールは本物なの?」と真相に迫るドキュメンタリーで、結局はプロフィールとは異なる見た目だったり、時には性別すら違っていたり......。ほとんどの人が他人を演じていたという事実にかなり衝撃を受けました。
 オンライン上での恋愛が珍しくなくなって来た現代だからこそ、なりすましは意外と簡単になったのかもしれません。しかし、1990年代のロンドンでは、5年間もあの有名監督スタンリー・キューブリックになりきりったオッサンがいたんです。そのオッサンを描いた映画が『アイ・アム・キューブリック!』。主演はジョン・マルコヴィッチ。

 ロンドンを中心に詐欺を働いていた中年のゲイ男アラン・コンウェイ(ジョン・マルコヴィッチ)は、とあるバーでスケッチを手にしている青年に声をかけます。アランはスタンリー・キューブリックだと名乗り、次回の主役の衣装に青年のデザインを起用したいと言い出すのです。「あの『シャイニング』や『時計仕掛けのオレンジ』の監督が、無名の自分のデザインを次回作で使ってくれる!」。夢を掴んだと思った青年はウキウキ気分でアランに酒をおごり、さらにはアランにお持ち帰りされてしまうのです。しかしその後、アランからの連絡はなくキューブリックのエージェントに問い合わせるものの相手にされず。他にも同様の被害にあった青年たちがたくさん! 徐々にアランの詐欺行為はエスカレートしていくのです。

 驚くことに、アランはキューブリックのトレードマークとされている髭を生やしている訳でもなく、根っからのイギリス人(キューブリックはアメリカ人)。キューブリック作品で知っているのはたったの2〜3本。なのになぜみんなキレイに騙されるのか。それは彼の堂々として落ち着いた態度や、喋り方にあるのです。アランの大物感たっぷりの話し方にかなり感心させられますし、次から次へと口から出てくるデマがマジでリアル。しかし一方で、アランは詐欺を働くうちに自分の居場所が徐々に狭くなっていくのです。

 アランが実在したように、実は昔からなりすましというのは意外と簡単だったのかも。しかし、簡単だからこそ依存しやすいのだと思います。「キャットフィッシュ」に出演するような、自分ではない誰かを演じることが快感な人に是非とも見てもらいたい一品。本作を見れば、なりすましの代償ははるかに重いものだと気付かされます。

(文/トキエス)

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