動物のイメージをまるっと覆す!? 動物行動学者が教える、生き物たちの真の姿

カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?
『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』
松原 始
山と渓谷社
1,650円(税込)
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 相手の見た目や雰囲気だけで「この人は〇〇だ」と決めつけてしまうことはないでしょうか? 強面な人は近づきがたかったり、メガネをかけている人は賢そうに見えたり、外見から多くの情報を得られるため、つい無意識に相手のことを決めつけてしまいがちです。その対象は人間だけでなく、動物に対しても同じことがいえるかもしれません。

 「カラスはずる賢い」「サメは狂暴」......こうした印象は多くの人がなんとなく共通して持っているものかと思います。しかし「その形にどんなイメージを喚起されるかは人間の問題であって、生物の責任ではない」というのが、『カラスはずる賢い、ハトは頭が悪い、サメは狂暴、イルカは温厚って本当か?』の著者・松原 始さんの持論です。動物行動学の研究を専門とする松原さんは「生活に合わせて形を進化させてきた生物に対して、中身を知らずに外見をあげつらうのはあまりに失礼だろう」(本書より)と記します。

 本書は、私たちが動物に抱く「きれい」「かわいい」といった見た目の誤解、「賢い」「やさしい」といった性格の誤解、「亭主関白」「子煩悩」といった生き方の誤解について、松原さんがさまざまな生き物の実例を挙げながら解き明かし、彼らの真の姿を教えてくれます。

 たとえば、松原さんの研究対象でもあり、タイトルにも名前が出ている「カラス」。一般的に「賢い」とされている鳥について「『カラスは賢い』で済ませてしまうと、いろんなことが見えなくなる」(本書より)と松原さん。

 たしかに「賢い」のですが、そこにはさまざまな違いが見られます。たとえば、ニューカレドニア島にいるカレドニアガラスは、驚くべきことに、ヒトとチンパンジーにしかできないような「道具を自分で作って使う」ことができるのだとか。また、ワタリガラスやハシブトガラスは鳴き合って仲間を呼ぶことなどから、社会的知能が発達していると考えられます。しかし、ハシブトガラスに鏡を見せるとものすごい勢いで喧嘩を売るそうで、鏡に写る姿が自分だとわかる「鏡像認知」の能力は低いようです。つまり、「賢い」の一言で決めつけるのではなく、どう賢いのか、事実に基づいたさまざまな角度からその動物の行動を見ることが大切だというわけですね。

 ほかにも「アフリカで一番ヤバいのはカバ」「カモメの水兵さんはゴミ漁りの常習犯」「実は清潔とも言えないチョウ」「タコは超ハイスペック」「自分の子どもかどうかわかってないカモ」「『美しい』の生物学的意味とは?」など、数多くの動物たちを例に挙げ、動物行動学の視点から彼らの生きざまを教えてくれます。そこに一貫してあるのは、「事実に基づく、ニュートラルな動物への見方」(本書より)です。

 間違った認識で勝手に相手のことを決めつけ、ましてや嫌ったりするのは、人間に対してはもちろん、動物たちに対しても良くないことです。動物に対するレッテルを一度すべて外し、まっさらな状態で本書を読んでみてはいかがでしょうか。きっと、新たな認識を得られて、とても新鮮な体験ができるはずです。

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