【無観客! 誰も観ない映画祭 第59回】『子鹿のゾンビ』

- 『子鹿のゾンビ』
- ダン・アレン,ロクサーヌ・マッキー,トム・マルヘロン,アレックス・クック

- >> Amazon.co.jp
『子鹿のゾンビ』
2025年 イギリス・アメリカ 81分
監督/ダン・アレン
脚本/リス・ウォーリントン
出演/ロクサーヌ・マッキー、トム・ルヘロン、エイドリアン・レルフ、ニコラ・ライト、アレックス・クックほか
原題『BAMBI THE RECKONING』
***
ここ数年、名作児童文学をベースにした悪趣味な映画が目立っています。例えば、以前ここで紹介した『マッド・ハイジ』(22年)は『アルプスの少女ハイジ』の後日談ですが、成長したハイジがペーターとセックスするわ銃で人を撃ちまくるわとメチャクチャ。また『くまのプーさん』のホラー版『プー あくまのくまさん』(23年)は、人の体にプーのアノまんまの頭が乗っかった怪人(被り物設定ではなく、そういう生物)が、『13日の金曜日』のジェイソンのように人々を惨殺していくのです。そんな原作を冒涜する製作がよく許可されたなと誰もが感じたのですが、実は法的にアリだったのです。パブリックドメインと言って、知的財産権の期限切れ(日本は権利者の死後70年)になった作品は、ある程度の緩い制約はありますが、他者が自由にアレンジできるのです。そんな流れで生まれたのが『子鹿のゾンビ』でした。
『子鹿のバンビ』の原作は、オーストリアのフェーリクス・ザルテンが1923年に発表した児童文学『バンビの森の暮らし』。1942年にディズニーがアニメ化して世界的に有名となり、日本では1951年に初公開されました。それを『プー あくまのくまさん』と同じ製作者が手掛けたのです。日本公開版のキャッチフレーズは、「せんべいだけじゃ、生きていけない」でした。
作品の導入部は凝っていて、影絵のアニメで表現されます。母子鹿が仲むつまじく歩いていると、母鹿が猟師に銃殺され、子鹿のバンビは森へ逃げます。やがて成長したバンビに妻子ができますが、妻はトラックに轢き殺され子鹿は人間に捕獲されてしまいます。さらにそいつらはドラム缶に入った緑色の液体を池に捨て、その水を飲んだバンビの体が「メキメキッ」とマッチョ化するのでした。
さて、こちらは人間の母と子。タクシーで夜の森の中を父親の実家へ向かっています。パパが実家の近くへ仕事で行ったきり帰ってこないのです。すると突如、正面の暗闇から巨大な男鹿が現れタクシーにドン! 北海道でも鹿や熊が走行中の車にぶつかって死んだりしていますが、なんと跳ね飛ばされたのはタクシーの方でした。鹿は巨大な角でタクシーを逆さまにひっくり返し、上に乗っかり「ドッカン、ドッカン」踏み潰していきます。挟まれて身動きできない運転手の腕から「ベキベキ!」と骨が出てきました。ママと息子のベンジーは脱出し、振り返るとクラッシュしたタクシーの上で巨大鹿が、あるはずのない牙をむき出し猛獣のように雄叫びを上げています。
ベンジーのパパの実家では、痴呆お婆ちゃん、2人のオジサン、兄嫁、従兄のハリソンが住んでいます。そこへベンジー母子が到着し、話を聞いたジョシュア叔父さんが、ベンジーのママが車中に落としたスマホを見つけに森へ行ってくれます。アンドリュー伯父さんの息子ハリソンは、お婆ちゃんの頭にクッションを投げつけ、年下のベンジーには「弱虫め」とチョコボールをぶつけるクソガキです。その頃森では、怪しい3人組がライフル片手に裏返ったタクシーの周辺を警戒していています。するとバンビの唸り声が森の中からして、物音にビクついた黒人が思わず発砲。様子を見に来たジョシュア叔父さんに命中してしまいます。他の2人は「何やってんだ〜」と死体を車に載せて運び去ります。
一方バンビは家に現れ、「ガシャーン!」と大窓を破って屋内に侵入。慌てふためいて皆さんは車に逃げ込みますが、ハリソンのママだけ乗り遅れ、角の一撃で胴体真っ二つ! アンドリュー伯父さんはアクセル全開で逃げますが、バンビも猛スピードで追いかけてきます。だが倒木に道を塞がれ立ち往生し、ロープを結び車で引っ張って除去しようと試みますが、なぜか車を前進させる役は無免許の小学生ベンジー(え、ママがやらないの?)。ハリソン親子がロープの係留作業をしていると、バンビの出現に驚いたベンジーが慌ててアクセル踏み込み車は急発進! まだ作業中のアンドリュー伯父さんの足首にロープが絡まり、前のめりに倒れたまま引き摺られていきます。そんな事は知らないベンジーは必死にアクセルを踏み続け、バンビを振り切ります。
車を追うのを諦めて戻ってきたバンビに気付いたハリソンは、青くなって森へ逃げますが、つまずいて顔から転んで「グチャッ」。顔を上げると、そこにはバンビのでしょうか鹿の糞(笑)。ハリソンは気を取り直して歩き始めると、そこへピョンとウサギさん(CG)。耳をピクッとさせたり首を傾げたりと、とても可愛いウサギさんです。しかしハリソン、足元に来たウサギさんを思い切り蹴り飛ばしました。心がありません。すると森のアチコチから数十羽のウサギさんたちがピョンピョンと集まってきます。なんだかヤバそうな雰囲気にハリソンも「さっきは悪かった。許して」と後退りしますが、つまずいて真後ろに転倒すると「ガシャン!」。そこにはちょうど狩猟用の罠、通称トラバサミが仕掛けてあったのです。見事にハリソンの側頭部に強力なギザギザの刃が食い込んで挟んでいます。ザマアミロです。そこへウサギさんたちがワッと群がり、ハリソンの肉を齧って生きたまま食べてしまいます。鹿だけではなくウサギも汚染水を飲んでバケモノになっていたのです。では熊も⋯⋯(ゾ〜)。そこまで行くと違う物語になってしまうので、残念ながら出てきませんが。
さて、車がガス欠で停車し、外へ出て初めてアンドリューに気付いたママ、ひっくり返すと見事に顔が削れてなくなっていました(汗)。そこへバンビが追いついてきますが、ちょうど3人組の車が通り掛かり、ベンジー母子とお婆ちゃんを乗せてアジトに逃げ込みます。するとそこにはベンジーのパパがいて、檻にはバンビの子が入っています。ママは「どういう関係? ここで何を?」とパパを問い詰めます。夫の会社は化学薬品の廃液を森に不法投棄し、怪しい3人組は池の水を飲んで怪物化した森の動物たち(他にアライグマやカエルも)を秘密裏に処分するために雇われたハンターだったのです。ドア越しに話を盗み聞きしてパパの悪事を知ったベンジーは、悲しみのあまり森へ出ていってしまいます。
復讐鬼と化したバンビは、黒人を立ちション中に角で首チョンパ、スキンヘッドは頭を食いちぎります。そしてバンビはアジトに入るとお婆ちゃんには危害を加えませんが、ボスの情婦がパニクってガスボンベを撃ち施設が大炎上! だがバンビは炎の中を火傷だらけになりながら走り抜け、小鹿を檻から出して抱きかかえるベンジーに銃口を向けておいるボスに突進! バンビは撃たれながらもボスを角に突き刺し、そのまま森の中へ走り去ります。やがて戻ってきたバンビに、ママさんが子鹿を返してメデタシメデタシ......と思いきや、血まみれで戻ってきた瀕死のボスにバンビは撃ち殺されてしまいます。だがその直後、ボスは何者かに頭を撃ち抜かれます。見れば、ライフルを構えたお婆ちゃんが! 一方ベンジーのダメパパは「捕まってたまるか」と見苦しく車で逃げています。だが車の中には......ウサギさん! 車内にパパの悲鳴が響き、血飛沫が飛び散ります。森では、バンビの亡骸の前で子鹿が「ピイ〜」と哀しい鳴き声を森に響かせていました。バンビジュニアよ、たくましく生きていくんだぞ!
はい、前回の『ゾンビライダー』に引き続き、今回もゾンビじゃありませんでしたね(苦笑)。化学薬品で汚染された水を飲んで、副作用により「ゾンビみたいになった」鹿さんでした。実は原作のバンビはディズニー映画の可愛らしいイメージではなく、人間や自然の厳しさと戦うバイオレンスな野生動物に描かれていたのです。ホラー小説の巨匠スティーヴン・キングは幼い頃に原作を読み、「バンビは私の恐怖体験と想像力の原点」と語っていたように、ダン・アレン監督は意味なくバンビを猛獣に描いたわけではなかったのです。これからもパブリックドメインにより、原作の要素を取り入れた作品が出てくることを期待しようではありませんか。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。