かつてのプロレス世渡り事情にも相通じる、超脱力系オフビートムービー『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』
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前置き抜きにご紹介する今回のお題は、脱力系オフビート・ロードムービー『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』(1989)。フィンランドの奇才、アキ・カウリスマキ監督の名を世に知らしめた怪作です。
本作は、シベリアのツンドラ地帯に似つかわしくない超トンガリーゼントとトンガリ靴がトレードマークの民族音楽バンド「レニングラード・カウボーイズ」が、強欲悪徳マネージャー・ウラジミールに騙されてアメリカに進出(リハ中に凍死したメンバーの凍った遺体も一緒に)。最終的にメキシコで成功を得る、というお話。
ウラジミールとバンドはツテを頼ってNY入りするも、バンドの演奏を聴いた業界関係者は、メキシコ在住のいとこの結婚式での演奏仕事を依頼し、「アメリカで流行ってるのはロックン・ロールだ」と吐き捨て門前払い!
そこでウラジミールは、バンドにロック習得を命じつつ、とりあえず引き受けてしまった結婚式の仕事のため、メキシコを目指して北米大陸を南下することになります。
78分の作品ながら、ウラジミールの食事関係の搾取ネタやら、凍死遺体の棺がビールクーラー代わりだとか、バイカー軍団が常連のバーで客を怖がるドラム担当が泣きながらドラムを叩くシーンなど、これでもかと出てくる珍妙シーンがみどころ。
意識高い系映画筆頭のジム・ジャームッシュ風のモヤっとしたけだるい作風(カメラワークや編集もそれっぽい)が余計に脱力感を誘います。
それでも本作の肝となるのが、NYからメキシコに至るまでに、各地の音楽スタイル(ロック、ジャズ、カントリー、マリアッチ風など)に合せてバンドの奏でる音楽が変化していく点。
80年代初期までのアメリカのプロレス世渡り事情も同様で、無名選手や日本人選手などは、各地のプロモーターの要望に応え(つまりその土地のお客の趣向)、間に合わせのマスクマンになったり、リングネームやギミックを変えるのは当たり前(今のWWEもそうですが)。
劇中でバンドメンバーがソ連国旗の標章(鎌と槌)をあしらった衣装で唄うシーンがありますが、プロレスラーの場合も出身国にちなんだ衣装やギミックを無理強いされたそうな。
加えて劇中では、ウラジミールから「お前らのような顔色の悪いバンドは人気が出ん!」とゲキが飛び、バンドメンバーがビーチで日焼けするシーンがあります。プロレス界でもハルク・ホーガンのごとく小麦色の肌の方が見栄えが良いため、日焼けサロン通いをする選手が多いのも事実です。
さておき、本作は「バンドはメキシコで人気スターになった」という形で終わりますが、続編『レニングラード・カウボーイズ、モーゼに会う』(※)では、僅か5年の間にドン底に!(主にテキーラのせいで)
本作エンディング直前に消えた人物がキーマンとして登場し、流転の果てに故郷のシベリアに戻る内容ですが、山も谷もない最高にぼんやりしたオフビート作風のため、本作以上に大らかな心持ちで鑑賞することをオススメ致します。
(文/シングウヤスアキ)
※ 国内盤DVD/BDは他作品とのBOX仕様を含め、基本的に本作と続編がセットで流通しています。