茶室の暗さこそが日本の美...文学から見る"茶の湯"の世界

茶の湯ブンガク講座: 近松・芭蕉から漱石・谷崎まで (淡交新書)
『茶の湯ブンガク講座: 近松・芭蕉から漱石・谷崎まで (淡交新書)』
石塚 修
淡交社
1,296円(税込)
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 室町・江戸時代に広く一般にまで普及、以後近代にいたるまで、日本を代表する文化のひとつとなっている"茶の湯"。その独特な美意識は、他の芸術分野----狂言や歌舞伎、俳諧や浮世草子、近代文学などにも影響を与えました。

 本書『茶の湯ブンガク講座』では、文学のなかに現れる"茶の湯"にまつわる描写に注目。17作品をとりあげながら、茶の湯がどのように描かれてきたのか、作品の現代語訳を交えながら解説していきます。

 本書でもとりあげられている谷崎潤一郎の名随筆『陰翳礼賛』では、茶の湯に関して言及している箇所が多々存在します。たとえば谷崎は、「「闇」を条件に入れなければ漆器の美しさは考えられない」(『陰翳礼讃』より)と指摘していますが、茶席には、現在では蛍光灯などの照明器具が設置されているものの、本来は突き上げ窓や下地窓などからの明かりしかありませんでした。そのため、「暗さがあってこそ、明るさがより深く印象付けられる」(本書より)として、茶席では陰影の効果を利用。たとえば千家二代・少庵が好んだ夜桜棗という棗は、黒棗の甲に黒漆で桜が描かれており、明るい席で見るとただの黒い棗に見えてしまうものの、灯火の下に置くと、凹凸が明確になり、桜の絵が鮮明に浮き上がってくるのだといいます。

 さらに谷崎は、そうした空間のなかでこそ、日本料理は映えるものなのだとも指摘。 なかでも味噌汁については「いつもは何でもなくたべていたあのどろどろの赤土色をした汁が、覚束ない蝋燭のあかりの下で、黒うるしの椀に澱んでいるのを見ると、実に深みのある、うまそうな色をしているのであった」(『陰翳礼讃』より)と述べています。

 しかし本書では、この谷崎が表現した美の世界が、近年失われつつあると警鐘を鳴らします。そして、ときには明かりを最低限に落としてみる必要性を説きます。

「とかく最近の茶席は明るすぎる傾向があります。そのために道具のささいな瑕疵までも目に付きがちで、それをあげつらう客も少なくありません。お稽古も明るいところばかりでしていると、昔ながらの名席での点前のときに困ります」(本書より)

 文学を通してみた、茶の湯の世界の魅力。普段茶の湯に馴染みのない方でも、その魅力の一端に触れることのできる一冊となっています。

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