「妻あり子なし、39歳、開業医」のレイプ犯と女たち...桐野夏生最新作
- 『緑の毒』
- 桐野 夏生
- 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 1,512円(税込)
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本の帯に"邪心小説"の文字。おどろおどろしいイラストが描かれた表紙が、主人公だけでなく、そこにいる登場人物、さらに読者がもつ人間の二面性を表現しているかのようです。
桐野夏生の最新長編『緑の毒』は、「妻あり子なし、39歳、開業医」の川辺康之が主人公。趣味はヴィンテージ・スニーカーを収集すること。妻の浮気を知ってから嫉妬に狂った男は、罪のない一人暮らしの女の部屋に侵入し、卑劣な手口でレイプを繰り返します。事件が公にならないのは、被害者たちが"セカンドレイプ"を恐れてのことでしたが、その中の一人が、「許せません」とネットに書き込み。同じような被害を受けた者が現われ、「レイプ被害者オフ会」を開くことになります。同一犯による犯行とみた女たちは、自分たちの手で復讐をすることを決意し......。
「男の嫉妬は見苦しい」という言葉がありますが、川辺は見苦しさを通り越した、屈折した嫉妬心で犯罪に手を染めます。妻の浮気相手に接触したり、二人の情事を妄想して、性的興奮を味わったり。次第に本業にも支障をきたすようになり、経営する医院のスタッフ(すべて女性)とも最悪の関係になっていきます。
一方、都会で一人暮らしをしながら懸命に生きてきたのに、つらく悲しい経験を背負ってしまった女たち。その悲しみを復讐心に変え、レイプ犯をつきとめようとそれぞれがアクションを起こします。不幸から立ち上がろうとする者は強さをもちます。その姿は見ていて爽快なほど。桐野氏の代表作『OUT』でも描かれた、女が集団になったときの残酷さも見ることができます。
本書は2003年から文芸誌に掲載された、一連の作品をまとめて長編小説にしたもの。タイトルは、シェイクスピアの『オセロ』の一節にヒントを得て、つけられたそう。人間の邪な心をテーマにした物語。秋の夜長に読む"毒"のある小説は、刺激的な一冊となることでしょう。