今が旬の初鰹  江戸の武士にとっては高級品だった?

絵でみる 江戸の町とくらし図鑑
『絵でみる 江戸の町とくらし図鑑』
江戸人文研究会,善養寺 ススム
廣済堂出版
4,383円(税込)
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 5月頃から旬になる「初鰹」は、江戸時代に「女房を質に入れてでも食べたい」ものとして大変に珍重されていました。初物にうるさかったという江戸っ子たちは、「初物を食うと75日長生きする」といってナス、キュウリにいたるまで初物食いに夢中になっていたそうです。そのなかでも初鰹は「75日」の10倍に当たる「750日」も長生きできるともてはやされました。

 もちろん、人気が高かっただけに値段も張り、しかも冷蔵庫がなかった時代のことなので、その稀少価値たるや相当のものだったに違いありません。

 そう聞くと、とても庶民には手が出せない食べ物だったように思えますが、実は上流階級にあたる武士こそ、こうした初物が食べられませんでした。その事情は、江戸時代のくらしぶりを絵本のように解説した書籍『絵で見る 江戸の町とくらし図鑑』(廣済堂出版)でこう明かされています。

 「武士が食べますのは、白身の魚で、鯛、白魚、鮎、平目が主でした。鰹や鯖、秋刀魚などは庶民の味です。ちなみに初物は庶民の楽しみで、武士は赤身の魚を食べませんし、高くて買えません。武士が買えないってことが、また江戸っ子を面白がらせます」

 いつも時代劇で目にする武士のイメージとは異なり、当時の武士のほとんどはかなり貧乏だったとのこと。現代ではいわゆるゴクツブシという意味で使われる「さんぴん」という蔑称も、そもそもは年収が「三両」しかない最下級の武士を指していたものでした。当時の下女奉公娘の年収がおよそ「二両」と言いますから、まさに「武士は食わねど高楊枝」といった生活だったことは、想像に難くありません。

 本書は、このような江戸庶民の様子やくらしぶりを、オールカラーのイラストで活き活きと浮かび上がらせています。時代小説のお供に一冊持っていると重宝しそうです。

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