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映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画惹句は、言葉のサラダ。】第28回『エイリアン』シリーズの惹句は、いつも新しい世界観を提示していた・・・はずだった。

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●『エイリアン』−宇宙を舞台にしたホラー映画。

 シリーズ第1作「エイリアン」が日本公開されたのが、1979年7月21日。今から40年近くも前のことである。この年の夏休み興行は、『スーパーマン』が本命であり、『エイリアン』はと言えば、リドリー・スコット監督はこれが日本初登場。主演のシガーニー・ウィーバーも、ほとんど知られていなかった。宇宙を舞台にした、何やらホラーめいた恐怖映画だそうだから、明朗快活な活劇『スーパーマン』とは対照的だ。そしてその作品カラー・世界観を見事に提示して見せたのが、「エイリアン」の宣伝材料に使われた、1行の惹句だった。

 「宇宙では、あなたの悲鳴は誰にも聞こえない。」

 ずっと『スーパーマン』の対抗馬、意味不明な宇宙SF映画との認識が、この1行によって改まった。そういう映画なのか・・。宇宙船という密室の中で、未知の攻撃的な生物に襲われる恐怖。

 しかもその敵キャラが完全生物とあっては、どうやっても人類に勝ち目はない。そんな恐怖感を盛り上げ、映画への興味をかき立てる、この惹句を目にした筆者は『エイリアン』が公開されるやすぐに、伝説の大劇場・テアトル東京でこの映画を楽しんだ。

 『エイリアン』はこの惹句が世間の話題になったこともあり、配給収入14.5億円を計上。同じく夏休みに公開された感動作『チャンプ』と肩を並べ、本命と言われた『スーパーマン』の28億円には及ばずとも、監督や主演女優の当時の知名度の低さを考えれば、大成功と呼ぶべき成績であった。

 だが『エイリアン』は製作費がかかったことなどで、最終的には赤字だったという。そのせいか当時としては異例とも言える早い時期に、地上波TV放映が行われた。日本では1980年10月10日のフジテレビ「ゴールデン洋画劇場」でオンエアされ、リプリーの声をアテたのは、かの野際陽子さん。彼女がマザー・コンピューターを「おふくろさん!!」と呼ぶ、その声は今でも強く耳に残っている。


●惹句と言うより、コンセプトそのもの−『エイリアン2』

 それから7年後。赤字だったはずの『エイリアン』の続篇が、同じプロデューサー・トリオによって製作され、1986年8月30日から日本劇場(現・TOHOシネマズ日劇1)を中心に日本公開されることになった。この時の宣伝惹句は、衝撃的だった。

 「今度は戦争だ!」

 これはもう、惹句だコピーだというレベルではなく、この映画そのもののコンセプトと言って間違いない。通常、映画の惹句は宣伝サイドが作るわけだが、その際映画が製作された意味づけ、概念と言えるコンセプトを重視し、それに沿ったものを作るべく心がける。実際にはそうも行かないケースも多いのだが、『エイリアン2』の場合は、この製作面でのコンセプトが、宣伝面でのコンセプトとして採用された、希有な例と言える。

 ジェームズ・キャメロン監督が起用されたシリーズ第2弾は、前作の宇宙ホラーから一点し、まさに戦争映画と呼んでもおかしくないほど、迫力あるアクション映画になった。

「This Time,I'ts War」。
 ただそれを直訳しただけなのに、いや直訳だからこそ、この映画のコンセプトがストレートに反映されたと言える。初日の日本劇場。満員の場内で『エイリアン2』を見た後、筆者の手足が硬直し、すぐに座席から立ち上がることが出来なかった。こんなに凄いアクション映画を観たのは初めてだ。「映画を観た」と言うより「戦争を目撃した」という実感。その気持ちを後押しし、挑発さえしたのがこの歴史に残る素晴らしいコンセプト・コピーであった。

 『エイリアン2』は、前作とは異なり8月末というシーズンの公開。しかも全国1本立てだった前作と、これまた違ってジャッキー・チェン主演の『サンダーアーム/龍兄虎弟』とローカルでは2本立てになったことが吉と出た。地方に強いジャッキー映画とのカップリングで全国を席巻。配給収入は12億円と前作には及ばずとも、当時は「シリーズ2作目の配収は、前作の7ガケ」と言われていた、そのジンクスを見事に破って見せた。この映画で俄然注目されたジェームズ・キャメロン監督の、その後の活躍はご存じの通り。


●後ろ向きな『エイリアン3』『エイリアン4』の惹句だが...。

 1992年8月には、製作開始まで多くの困難に見舞われた『エイリアン3』が、デヴィッド・フィンチャー監督の手で完成。日本公開され、6年後の『エイリアン4』はフランスからジャン=ピエール・ジュネ監督を招き、第4作が日本公開された。

 ところが、『エイリアン』『エイリアン2』では、作品の世界観を見事に表現したはずの宣伝惹句が、第3作、第4作ともに奮わない。
 『エイリアン3』の宣伝惹句はといえば、シリーズ作品であることを誇示するようなものだった。

 「1979年、人類はエイリアンと遭遇。
  1986年、それは永遠に去った。
  1992年、今度は人類が危ない。
            あいつが戻ってきた」

 このタッチは『エイリアン4』にも踏襲される。

 「1979年、遭遇。
  1986年、決戦。
  1992年、消滅。
  1998年・・・あなたは「復活」を目撃する。」

 シリーズであることが興行の安定性を約束することは事実だが、『エイリアン』シリーズの場合、同じパターンを繰り返すのではなく、1作品ごとに監督も新しい人物となり(そのことが先行しすぎて、『エイリアン3』の製作はトラブルが頻発した)、その監督の個性が作品に反映されていた。宣伝惹句もまた、作品ごとの世界観を表現すべきなのに、第3作と4作は、過去の実績を誇示するばかり。

 ところが映画は公開してみなくては分からない。公開時の評価も芳しくなかった『エイリアン3』は、配給収入19.5億円をあげてシリーズ最高のヒットを記録。しかもこの成績は1992年に公開された外国映画としては、『フック』に続いて2番目のヒット作となったのだ。

 だからといってシリーズの勢いが増したのではなく、『エイリアン4』は1998年4月に公開されたものの、配給収入は10億円と、今度はシリーズ最低にとどまり、多くの上映館ではこの年の正月に歴代ナンバーワン・ヒット(当時)となったジェームズ・キャメロン監督の『タイタニック』を大きなスクリーンに戻し、『エイリアン4』は短い期間で上映を終了してしまった。


●前日譚になるはずだった『プロメテウス』と、最新作『エイリアン:コヴェナント』

 その後『エイリアン』シリーズは、同じフォックスのヒット・シリーズ『プレデター』とジョイントし、『エイリアンVSプレデター』が2004年12月、『エイリアンVSプレデター2』が2007年12月に日本公開されるが、これらはどちらかと言えばスピンオフと捉えるべきだろう。

 久々に『エイリアン』シリーズの正統派の続篇が作られると聞こえて来たのが、2010年を超えた頃だ。当初の予定ではリドリー・スコットが製作総指揮をし、新人監督が撮る予定だった『エイリアン』の前日譚は、結局スコットが監督することとなり、内容も『エイリアン』シリーズを踏襲しているとは言いがたいものになってしまった。タイトルも『プロメテウス』と、シリーズではないことを謳い、我が国では2012年8月に公開されたところ、興行収入18.1億円をあげ、まずまずのヒットとなった。その「シリーズになり損ねた」「プロメテウス」の宣伝惹句は、いささか哲学調だ。

 「なぜ人類誕生の瞬間は、空白のままなのか。」

 『エイリアン』シリーズを引き合いに出すのではなく、1本のSF大作として正面から勝負しているあたりは好感の持てる惹句と言える。
 そして2017年9月15日。リドリー・スコット監督が満を持して放つ『エイリアン:コヴェナント』こそ、正真正銘『エイリアン』の前日譚で、その宣伝惹句も1作目、2作目のタッチが踏襲されている。

 「絶望の、産声」

 実に37年に渡る『エイリアン』シリーズと、その宣伝惹句の流れを興行成績と共に追いかけることで、この完全生物とその恐怖を表す言葉たちが、いかに世界中のファンを魅了してきたかを、改めて振り返ってみた。
 さて、「コヴェナント」の続きは・・・・?

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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