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プロレス×映画

ダニエル・ブライアンの「YESムーブメント」と重なる『イエスマン"YES"は人生のパスワード』

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 何かに行き詰まった時に観たくなる映画は、人それぞれにあるかと思います。筆者はジャームッシュの『ブロークン・フラワーズ』やレスリー・ニールセン大先生の『裸の銃を持つ男』シリーズなどを気分に合わせて観たくなります。でも、ストレートに前を向いてみちゃおうかな、って時の1本が 『イエスマン"YES"は人生のパスワード』(2008)。

 ネガティブ男が友人の勧めで参加した胡散臭いセミナーで、何に対しても「YES」と肯定、実行することで人生が変わって行くというコメディ作品。
ストーリーとしては何となく先が読める感動ベタスジタイプですが、キャストが良いんです。

 主人公カール役のジム・キャリーはいうまでもありませんが、ヒロイン・アリソン役のゾーイ・デシャネルは、アヴァンギャルドなコミックバンドのボーカルなどをこなす自由奔放な女性を演じています。
のちのTVドラマ『New Girl』の「ジェス」役に相通じるボケ倒し系のコメディエンヌ振りは、時に昨品の余韻すらブチ壊すキャリー先生の過剰な笑いに負けていません。

 さらにセミナーの指南役として登場するのが怪優テレンス・スタンプ。変態かアル中、その他諸々のヒール(悪党)役で知られるテレンス御大。御大のトレードマークともいえる「死んだ魚の眼」に加えて、セミナー中にカールが「NO」と口走るや、表情を変えず全力疾走でにじり寄るシーンは必見です。

 劇中ではカールが「イエスマン」になることで、自分や周りの環境を変えていくのですが、プロレスで「YES」といえば、現在は現役を引退し、WWEの看板ブランドのひとつ「Smackdown」のコミッショナーを務めるダニエル・ブライアン。

 ブライアンの「YES」はそもそもはヒール時代に観客のヒートを買うためにやり始めたものでしたが、観客が真似をして逆に煽られる事態に。しかし、ベビーフェイスにターンしたことで名実共にポジティブなモノとして浸透し、「YES」の言葉と共に両手の人差し指を突き上げる一連のチャントは、「YESムーブメント」として他のスポーツ業界にも飛び火。
 会社側から"B級"扱いされながらも、ファンと共に「YES」と叫び続けたブライアンは、会社側の思惑を変えさせ、慣例的なWWEのスター街道を飛び抜けた存在になるのです。

 とはいえ、現実で「YES」を連発していたら、ろくでもないことも起きてしまいますよね。劇中では、銀行の融資担当であるカールが普通ではあり得ない小口の融資を承認しまくっていましたが、その一連のサクセスについては正直、現実味は薄いかもしれません。
 ただ、出来ないことにイエスというのではなく、実は出来ること、やれば出来るかもしれない、というモチベーションの持ち方を示唆する本作は、自分の可能性を信じたい時にオススメしたい1本です。

(文/シングウヤスアキ)

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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