うつ病を支える側まで不調に...... 精神科医が解説する「もらいうつ」

- 『もらいうつ』
- 髙橋 一志
- 方丈社
- 1,650円(税込)

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日本では一生のうちに約15人に1人がかかるという「うつ病」。この病気は精神的・身体的なストレスなどを背景に、脳がうまく働かなくなっている状態です。感染症ではないため、人から人へとうつることはありません。しかしながら、実際にはうつ病の人の家族や同僚など、支える側までが心の不調の陥ってしまうというのはよくあることだそうです。心の距離が近い人の苦しみに寄り添い続けることで、もともとは健康であったにもかかわらず、自分まで心身の不調に陥り、うつ病を発症することがあるのです。
この現象を「もらいうつ」と名付け、その実態と予防法を豊富な臨床事例から解説したのが、書籍『もらいうつ』です。著者の髙橋一志氏は精神科医で、これまで多くの患者や家族の診療、企業のメンタルヘルスに携わってきました。本書では、その経験をもとに「もらいうつ」に関するさまざまな事例が紹介されています。
たとえば、同じ職場の先輩と後輩社員だったAさんとBさんのケースは、似た経験をしたことがある人もいるかもしれません。女性同士の二人は仲良くランチをするような間柄でしたが、あるときAさんはBさんから「仕事が思うようにできない」「体の調子が悪い」といった相談を受けるようになります。Aさんは仕事のアドバイスをしたり、医師の診察を受けるよう勧めたりしましたが、次第にBさんからの電話やSNSのメッセージが、早朝や夜間にも頻繁に来るようになり、Aさんの心まで折れていったといいます。
これは典型的な「もらいうつ」の一例であり、髙橋氏は「Aさんが会社外での交流は避けるなど、Bさんとの距離を保っていれば、『もらいうつ』は回避できたのではないかと思う」(本書より)と記します。重要なのは、「親子、夫婦に限らず、親戚、親友などは、親身になって相手のことを考えてしまいやすい関係なので、過度に共感しないように注意が必要」(本書より)だということ。「近づきすぎず、離れすぎず。うまくバランスをとる」のがいちばんの方法となるそうです。
とはいえ、職場の同僚などであれば仕事外でつながりを持たないこともできますが、同じ屋根の下で暮らしている家族がうつ病になってしまったとなれば、物理的にも心理的にも距離を取ることは難しいかと思います。そんな場合には、「うつ病についての知識を持っておくことが、自分の身を守る手段になる」といいます。
このほか、第三者の相談窓口を活用して心の負担を減らしたり、うつ病にならないための予防や対策をおこなったりするのも有効です。本書にはその具体的な方法も記されていますので、ぜひ参考にしてみてください。
これまでうつ病に対する心理教育が広くおこなわれてこなかったことで、うつ病への偏見を持っている人や、自身がうつ病であることに気づかないままの人もまだまだ多いそうです。髙橋氏によると、そのために「『次のうつ病』、つまり『もらいうつ』を発生させてしまっている」(本書より)といいます。本書でうつ病に対する知識や理解を深め、うつ病の人との適切な距離感を学ぶことが、うつ病の人、そしてそれを支える人の心の健康を守ることにつながるかもしれません。
[文・鷺ノ宮やよい]