ギリシア神話の入口で立ち往生『アルゴ探検隊の大冒険』
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近所の映画館での上映がもうすぐ終わりとのことで慌てて『オデュッセイア』を見に行った。とにかく超大作ばかりを連発するクリストファー・ノーラン監督の最新作だ。予想どおりというか、とにかく超大作であることを前提とした巨大さを感じさせる映像、超大作であることを随所に感じさせる時系列を入れ替えた構成、超大作だからこそ実現したであろうトロイの木馬の内部に男たちがギッシリ詰められ糞尿まみれで何日も過ごすちょっと笑っちゃいそうなリアル感、それでいてノーランお得意のもったいつけてるのにカットが頻繁に変わるごとにほんの数秒飛ばされている感じのスピード感と、とにかくなんだかでっかい映画を見たなあと思わされた。
と同時に、本作はそもそもギリシア神話の世界を描いたものであり、映画でギリシア神話といったら即座に連想するのは『アルゴ探検隊の大冒険』ってもんである。
『アルゴ探検隊の大冒険』はロドスのアポローニオス『アルゴナウティカ』を原作とする1963年のアメリカ映画。地位を奪われたテッサリアの本来の王子ジェイソン(イアソン)が、遠方の国コルキスにあるという秘宝の金の羊毛を手に入れるため、ヘラクレスを筆頭にギリシア神話の英雄たちを引き連れ、帆船アルゴ号で海へ出る。が、そこには数々の試練が待ち受けていた。
というお話があるにはあるのだが、本作はそうしたドラマはあくまで映画を進めるための道具立てにすぎない。真の主役はジェイソンたちが出会う試練=数々の怪物たちだ。と書けば、なんだいわゆる怪獣映画、モンスター映画の類かと思われても仕方ないのだが、しかし本作、その怪物たちのクオリティが尋常ではない。
特撮を手がけたのはアメリカの円谷英二ともいうべきレイ・ハリーハウゼン。得意とする特撮技法は怪物の人形をちょっと動かして一コマ撮ってまたちょっと動かして一コマ撮って、映写すると動いているように見える、いわゆるストップモーションアニメ、人形アニメ。CG全盛となった現在では好事家のための作品ぐらいでしかお目にかかれなくなってしまったものだが、コマ撮りしたものが動く様子というのはCGでも着ぐるみ特撮でも再現できない実に独特なもので、ギリシア神話というファンタジー世界の異物感をさらに高めることに貢献しているように思う。
筆者は小学生の頃、本作を予備知識なしで鑑賞したのだが、劇中最初のコマ撮り場面で青銅巨人タロスが動いた瞬間に異様な興奮がもたらされたことを思い出す。非現実が現実に浸食してくる瞬間をそのとき確実に味わったのであった。
ちなみに『オデュッセイア』ではコマ撮りではないものの、オデュッセウス一行がある島で出会ってしまう一つ目巨人キュクロプス(サイクロプス)の場面はハリーハウゼン作品群に共通する大迫力。それもそのはずで、『オデュッセイア』関連記事を読むと、ノーランは『アルゴ探検隊の大冒険』他ハリーハウゼン作品群への憧れが本作制作の背景にあったようである。
とはいえギリシア神話という長大な物語で考えると、『アルゴ探検隊の大冒険』と『オデュッセイア』ってそれぞれ神話の一部分でしかなく、両者はかなり関係ないよな、と思わなくもない。が、それでもちょっと調べてみたところ、『アルゴ探検隊の大冒険』のヒロインであるメディアは『オデュッセイア』でオデュッセウスの部下たちを恐ろしい目にあわせる魔女キルケーの姪であったり、どちらの映画版でも省かれているものの、アルゴ号の乗員の息子たちがオデュッセウスの仲間たちであったりするらしい。自分がギリシア神話にあまりに無知であるために、作品自体を見ながらこれがそうかあれかなどと楽しめないのがもどかしい。
そういう意味では例えば『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』二作目のサブタイトルが「キルケーの魔女」だったり、登場するモビルスーツの名前がペーネロペー(オデュッセウスの妻の名前)だったり、その装甲の中身がオデュッセウスガンダムだったり、遡れば『機動戦士Zガンダム』の敵勢力ティターンズという名称がこれまたギリシア神話由来だったり、人気漫画『ちいかわ』に登場する一つ目巨人の通称オデがおそらくサイクロプスと思われたり、同じく『ちいかわ』の「島編」(または「セイレーン編」。『映画ちいかわ 人魚の島のひみつ』の原作エピソード)に登場するキャラクター・島二郎が『アルゴ探検隊の大冒険』にも登場する海神ポセイドンではないかとまことしやかに考察されたり、『ちいかわ』原作者ナガノ氏が映画版二作目があるなら島二郎とオデがどつきあう内容にしたいと語っているのだが、『オデュッセイア』でも描かれているようにポセイドンとサイクロプスは親子なので次回作は親子喧嘩の話なのではないかと推察されたりと、ギリシア神話をほとんど知らないのにギリシア神話モチーフ作品は多数存在しており(ここではガンダムとちいかわにしか触れていないけど)、知っていればもっとあれもこれも楽しめるのに! と、自分の知識不足を嘆くばかり。
一応、かつてパゾリーニ監督の『王女メディア』を見た際に「これって『アルゴ探検隊の大冒険』の後日談だ!」と気付けはしたし、原作『オデュッセイア』にはナウシカアなるかの有名なキャラクターの元ネタらしい登場人物がいることも把握しているものの、だからなんだ、設定や情報を追っているだけじゃねえか、などとも思ってしまい、いつまで経ってもギリシア神話モチーフの作品群がメタファーとして描こうとしている文学的深みには全然たどり着けないな、でも今から体系的にいろいろ学ぶ気力もないしな、とあっさり諦めてハリーハウゼンの特撮パートばっかり繰り返し見ちゃうのであった。せめて同じくホメロスの『オデュッセイア』が原作ということになっているコーエン兄弟の『オー・ブラザー!』でも見直すべきなのかもしれない。
文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
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