【無観客! 誰も観ない映画祭 第60回】『アタック・ナンバーハーフ』
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『アタック・ナンバーハーフ』
2000年 タイ、イギリス合作 104分
監督/ヨンユット・トーンゴーントゥン
脚本/ヨンユット・トーンゴーントゥン、ジラ・マリクン、ウィスッティチャイ・ブンガーンジャナー
原題/タイ『SATREE-LEX』、イギリス『THE IRON LADIES』
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今年の9月29日、バレーボール男子のサントリーサンバーズ大阪に所属する高橋塁選手が、インスタとパーソナリティを務めるラジオ番組で、自身がゲイであることを公表しました。偶然ですが、その日に筆者が観ていたDVDは『アタック・ナンバーハーフ』でした。
1996年に開催されたタイの男子バレーボール国体で、トムボーイの監督率いる、ゲイ選手中心のチームが優勝を果たしました。タイではカトゥーイと呼ばれる独自のジェンダー・カテゴリーが広く知られていますが、まだ当時は国内でもLGBTQ+に対する世間の偏見は強く、現在ほど寛容ではありませんでした。そんな古い体質に監督は、自軍を「サトリーレック(タイ語で鋼鉄の淑女)」と名付けて立ち向かったのです。
トランスジェンダー・チーム国体優勝のニュースは瞬く間に世界へと広がり、NHK、CNN、ロイターなど世界各国から取材がタイに殺到。テレビCMディレクターとして実績のあるヨンユット・トーンゴーントゥンは映画初監督ですが、初稿をゲイの脚本家に依頼し、さらにゲイの友人に数カ月間密着してリサーチしました。そして名のある俳優を最小限に留め、主要人物は自分のCMに出演した映画未経験者を起用したのです。しかも彼らの殆どがバレーボールも素人で、バレーボールコーチを付けてアザだらけになるまで役作りさせました。そんな手作りの低予算映画でしたが、公開するや興行成績は当時のタイ映画史上2位を記録! これでタイのマイナー競技だったバレーボールが大ブームとなり、タイ政府が本腰を入れます。中国と日本からコーチを招聘し、小柄なタイ人が欧米の選手との体格差を埋める、複雑な超高速時間差攻撃を完成させました。今やタイは、世界に誇るバレーボール強豪国となっているのです。
公開前には「こんな映画を見たら青少年がゲイになる」といったバッシングがありました。だがトーンゴーントゥン監督は「ゲイも普通に暮らす隣人として、彼らを存在しない事にするのはもうやめよう」というメッセージを作品に込め、批判者を黙らせました。また「ゲイの仕草を大袈裟に誇張しすぎ」という当人たちからの声も出ましたが、トーンゴーントゥン監督はモデルにした選手全員に「映画的なディフォルメ」を伝え了承を得ていました。そして了承と言えば邦題。アニメ化もされたバレーボール漫画の名作『アタックNo.1』からとったもので、これも原作者・浦野千賀子の承諾済みです。ちなみにタイトルにある「ハーフ」の語源となったニューハーフは、ゲイとはまた違う意味合いですが、そこは語呂ということで見逃しましょう。これから粗筋を紹介しますが、現在は不適切とされる用語が使われている劇中の会話は、若い読者に当時の差別的な空気を知ってもらいたいため、敢えて公開時の日本語字幕で再現することをお許しください。
タイの国体出場を目指すランパーン県のバレーボール代表チームは、傲慢なマン主将によるワンマンチーム。大学時代にバレー選手だったジュンとモンの親友ゲイコンビは、いつも自分らをバカにするチームの練習を外から眺めているだけでした。そこへ弱小高校チームを3年連続優勝に導いた腕利き女性監督ビーが就任します。新監督はトムボーイで、誰にでも平等な実力主義者。それを知ったジュンとモンは、県代表選手を決める紅白戦に参加します。二人はマンたちから「ケツ貸してるのか?」とからかわれながらも大活躍。ジュンとモンが新チームのレギュラーとして名前を呼ばれますが、マン主将は「オカマとは一緒にやりたくない」と、副主将チャイ以外の仲間を引き連れてチー厶を去ってしまいます。そこでジュンらは各地に散っている大学チーム時代のゲイ仲間を、まるで黒澤明監督『七人の侍』のように集めていきます。軍からは、スパイクしたボールが破裂する(んなバカな)「水牛」の異名を持つ怪力ノン。ゲイのメッカのパタヤでショーダンサーをしている、トランスジェンダーのピア。家族にはゲイを隠しノンケのフリをして暮らす大企業経営者の跡取り息子ウィット。おすぎとピーコを三つ子にしたような三兄弟。前代未聞のバレーボール・チームは、息の合ったコンビネーションと美形ピア(不覚にも魅かれてしまいました)の魔球サーブにより連戦連勝、見事に国体出場を決めてしまいます。
だがチームに問題が発生します。ゲイに抵抗のあるチャイは、ワチャワチャする面々に辟易し、特にモンとは殴り合い寸前まで対立を深めていきます。そんなチームの亀裂を憂うビー監督は、メンバー全員を家に呼んで決起集会を開き「我々はサトリーレック(鋼鉄の淑女)だ」とチーム名を発表します。このビー監督を演じたシリタナー・ホンソーポンは、70年から80年代に活躍していたタイの名女優。引退していたところを、実際の本人に容姿も性格もあまりにも酷似していたためオファーされたのです。翌日、チャイと二人きりになったモンは「あなたはこれまで一人もゲイの知り合いいないでしょ。知らないなら私たちを差別する資格ないわ」と真剣に伝えます。路上マーケットを散策するチャイは「水牛みたいな顔して汚らわしい! オカマなんかに売る物ないよ。アッチへ行け」と追い払われ、哀しい顔で耐えているノンを目撃し考え込むのでした。
大会が始まると、サトリーレックだけ初日にいきなり3試合が組まれています。大会委員長による、初日で潰そうと企む嫌がらせです。だが逆境こそメンバーらのエネルギー源。サトリーレックの闘志に火が着き3戦全勝! この快進撃に「オカマパワー炸裂!」「カマさんバレー初日三連勝!」と新聞の見出しが躍り、一躍有名人となったメンバー見たさに、ガラガラだった会場は埋まっていきます。だがマンたちの移籍先チームとの4回戦、試合前に尻を触ったマンにモンがボールを股間にぶつけて暴力行為で退場処分となります。主力を欠いたチームは戦力ダウンで初黒星。ロッカールームではチャイがブチ切れて「お前らも化粧なんてしないで試合に集中しろ!」と雰囲気は最悪です。そして5試合目は優勝候補の空軍チームで、優勝するにはもう一つも負けられません。しかもテレビ中継があるというのに、メンバーらはチャイに気遣いスッピンで試合に臨み、モチベーションが下がってミスを繰り返し第1セットを落とします。精彩を欠くメンバーにチャイは、「お前ら、ひどい顔だぞ⋯⋯化粧しろよ」。これで「いやっほ〜!」とベンチが大盛り上がり! その場で各々が化粧を始め、「大変な事が起こりました!」と中継アナウンサーも大興奮。元気を取り戻したサトリーレックは見事に逆転勝ち。帰りの通路でチャイが「化粧バエするんだな。みんな美人になった」。これにジュンが「チャイのイジワル〜」。ようやくチームは一つになったのです。
そして決勝戦は同じ勝ち点同士で当たるマンのチーム。サトリーレックにとってはリベンジです。だが、ここは実話にはありませんが、決勝前夜のゲイバーで心ない輩がピアにセクハラしたのをキッカケに大乱闘勃発。主力が負傷した上、警察沙汰になり全員豚箱へ直行。そんな明日の決勝出場も危ぶまれる中、救世主が現れます。ノンケですがゲイに理解のある私服刑事が、正当防衛でメンバーを釈放させ、乱闘もなかった事にしてくれたのです。ところが一難去ってまた一難! 先日のテレビ中継で息子を観て驚いたウィットの両親が、強引に息子を連れ帰ってしまいました。
決勝当日、サトリーレックに勇気をもらった解説者、大会本部にも二人いたゲイが続々とカミングアウトしていきます。しつこく「オカマに出場資格ない!」と罵る大会委員長に観衆はブーイングを始め、総立ちで「サトリーレック!」とシュプレヒコール! それを見て感涙する水牛(笑)。だが昨夜の大乱闘でメンバーは怪我人だらけ。マンは怪我の目立つジュン、水牛、ピアを集中して狙い順に潰していきます。この仲間の大苦戦をラジオで聴いていたウィットは、生まれて初めて父親に逆らい会場へ戻ります。ベンチで休んでいたジュンたちも回復してベストメンバーが揃います。気迫で戦うサトリーレックに、タイ中が仕事そっちのけでテレビとラジオに釘付け。サトリーレックは、薄氷の勝利を収めるのでした。エンドロールでは、「実物」の選手たちが俳優と並んで顔出しするシーンがサプライズで流れます。みな何となく似ていて微笑ましく見入っていると、ビー監督のソックリ度には腰抜かしました(笑)。
作品はベルリン国際映画祭やトロント国際映画祭で、またダブリン、ニューヨーク、サンフランシスコで開催された各「レズビアン&ゲイ映画祭」でも立て続けに授賞。『アタック・ナンバーハーフ2 全員集合』(02年)、『アタック・ナンバーハーフ・デラックス』(14年)と続編も製作されました。
【著者紹介】
シーサーペン太(しーさー・ぺんた)
酒の席で話題に上げても、誰も観ていないので全く盛り上がらないSF&ホラー映画ばかりを死ぬまで見続ける、廃版VHSビデオ・DVDコレクター。「一寸の駄作にも五分の魂」が口癖。