コミュニティバスと中学生男子と『バタリアン』
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最寄り駅まで行くにはこれまで自転車を使っていたのだが、年齢的なものか少々めんどくさくなり、最近は地元のコミュニティバスを利用することが多くなった。コミュニティバスは地元住民のために少々迂回しながら住宅街を走るため、これまであまり行くことのなかったエリアの風景を見ることとなる。中学生時代の同級生A君の家の前もバスは通過。カーブにあるのでバスが速度を落とし表札を読むと、今でもA君の苗字が記載されている。A君とはさほど親しかったわけではないのだが、思い返すと中学生男子らしい中学生男子だった彼の記憶が蘇る。そのうちの一つが、彼と一度だけ一緒に映画を見に行ったことだ。ゾンビ映画の一本『バタリアン』。いかにも中学生男子らしいチョイスである。
『バタリアン』は1985年に制作され、日本では筆者中二の三学期、86年2月に公開された。医療会社の倉庫で働く青年と先輩のおじさんスタッフが、興味本位から地下に保管されていたゾンビを蘇らせてしまう。倉庫は墓地に隣接しており、ゾンビ復活と同時に吹き出した蒸気によって、土葬されていた遺体も次々復活。救援に駆けつけた人々も次々犠牲となり、ゾンビは増える一方。
とだけ書くと、まあありがちなゾンビ映画だよな、という感じがしてしまうのだが、ゾンビを蘇らせる前、おじさんは青年に聞くのである。『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』(1968年)って映画を見たことあるか? と。同作は史上初となる、人を喰うタイプのゾンビが登場する映画だ。『バタリアン』劇中ではあの映画は実話を元にしたものであり、そのときのゾンビが地下にある、という設定。だが事実は小説より奇なりというわけで、蘇ったゾンビたちには映画で見たルールが適用されない。頭を撃ち抜いても死なないし、走るし、喋るのである。人喰いゾンビ映画の元祖に言及しながら、そのルールを悉くひっくり返すことで恐怖と笑いが増幅する、うまい構造である。
なお、『ナイト・オブ・ザ・リビング・デッド』は日本では当時劇場未公開。『バタリアン』公開時にビデオソフトがリリースされていたかどうかはわからないが、いずれにしても当時は知っている人は知っているという程度であり、そのためか字幕でも『ゾンビの夜』とされていたと記憶する。筆者はSF映画情報誌『宇宙船』(当時は朝日ソノラマ刊。現在はホビージャパン刊)などを読んでいたため、未見ではあるもののその存在を知ってはいた。そこで映画館を出てからA君に「あの映画って本当にあるんだよ」などと豆知識を披露したところ、A君は急に怯え出し、こう言ったのである。「ゾンビって本当にいるの?」
A君は何かにつけてこういう人であった。同じクラスのB君が読書週間のために持ってきたミュージカル『アニー』のノベライズ(おそらく講談社X文庫)の口絵に載っていた登場人物紹介(1982年の映画版のスチールが使われている)を見て、「こいつが悪い奴? こいつは?」などと内容を一切知らないのにいちいち悪役を確認しようとしてきたり(事前に誰が悪役がわかっておくことで安心したいのだと思われる。読むのはA君ではなくB君なのに)、ある日の朝、これまたものすごく怯えた顔をしているのでどうしたのかと聞くと、前日B君の家に行ったら人殺し映像を見せられた、やばいやばいと言い続けていて、B君に確認するとオリジナルホラービデオ『ギニーピッグ2 血肉の華』(1985年。怪奇漫画家の日野日出志監督による特殊技術を駆使したスプラッター作品)を見せたら本物と思い込んじゃったので面白いからそのままにしているとか(『アニー』と『ギニーピッグ』を両方楽しむ中学生B君もちょっとどうかと思うが)、他にも筆者の知らないところでA君にまつわるいろんなエピソードがあったことと思われる。
中学卒業後は全く交流がなくなったが、浪人時代に予備校に向かうため山手線に乗っていたらたまたま同じ車両でA君とばったり再会した。彼はその当時、香港映画にハマっていたらしく、しかしビデオで見るとなんで画面の上下が黒く隠されているのかな、画面小さくなるのに、などとややご立腹の様子。あれはワイドやシネスコ画面をそのまま収録しているからだと教えたものの、納得したかどうかわからないうちにA君の目的駅に到着、じゃあまた! などと朗らかに手を振って去っていった。
コミュニティバスに揺られるたびにそんなA君のことを思い出す。きっと彼のことだから、『バタリアン』に登場する「オバンバ」なるゾンビのことも、いまだに「アメリカ映画なのにオバンバなんて名前なのは面白いな」などと思っていたりするのではなかろうか。日本公開時に悪ふざけで勝手に名付けられているだけなのに。
文/田中元(たなか・げん)
ライター、脚本家、古本屋(一部予定)。
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