代表チームとクラブでは違う? チームで異なるサッカー選手のキャラクター
- 『深読みサッカー論 (日経プレミアシリーズ)』
- 山本 昌邦,武智 幸徳
- 日本経済新聞出版社
- 940円(税込)
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いよいよ明後日から南米ブラジルで開幕するサッカーのワールドカップ(W杯)。世界最大のスポーツの祭典で、サッカー界でもっとも重要な大会ですが、近年では、欧州リーグのクラブチームが頂点を争うUEFAチャンピオンズリーグのレベル向上が著しく、以前のようにW杯から新たな戦術ブームが生まれるといった傾向はなくなりつつあります。
確かに年に数回ほどしか一緒にプレーする機会がない代表チームよりも、ほぼ毎日、一緒にトレーニングの行えるクラブチームの方が完成度を高めやすいもの。それもあってか、W杯よりクラブチームが好きというサッカーファンもチラホラ現れるようになりました。しかし、W杯にもまだまだ見どころがたくさんあります。
その中の一つが、クラブチームと代表チームでの"キャラ設定の違い"。
ヨーロッパのビッグクラブでは、所属するどの選手にもチーム内での役割がこと細かに決まっています。全選手が、その役割通りに動いて、監督の考える高度な戦術を実現させているのです。
しかし、そんな規律をしっかり守る選手でも、いざ代表チームに加わってプレーをするとまったく違うスタイルになる選手がいるのです。元五輪代表監督の山本昌邦氏は書籍『深読みサッカー論』の中で、そんな選手のキャラの違いについて語っています。
「たとえばチェルシーにいるミケル・ジョン・オビという選手はクラブでは中盤の底だからワンタッチでぽんぽんボールを動かすようなパス回しがよくて、中央をドリブルでぶっちぎるなんてことは一切しないんです」(同書より)
件のミケル選手ですが、現在、プレミアリーグの名門チェルシーを率いるモウリーニョ監督のもと、自身に与えられたミッションをこなそうと、一生懸命プレーをしています。これは全て欧州のチャンピオンになるため。細かく決められたフレームの中でミケルは自分の仕事をこなしているのです。一方、ナイジェリア代表でのミケルはどうでしょう。山本氏はこう語ります。
「ナイジェリア代表になったときの試合のデータを見ると、自分の力で、真ん中からどんどんボールを運んでいきますからね。いちばんドリブルの多い選手になります。チェルシーのミケルとナイジェリアのミケルでは役割が全然違う。『代表だと、ほかの選手がパス回しについてこられないから、おれが運んだほうが速いだろう』みたいな感じになるんですよ、きっと。(笑)」(『深読みサッカー論』より山本氏談)
ナイジェリア代表でクラブと同じことをやろうとしても、周りのレベルが違うのでミケル自身の役割が変わってくるのです。山本氏はこの変化を「彼の持っている本来のリズム、民族のリズムかもしれない」と分析しています。ドリブルこそがミケルの本来のプレー。だとすると、トップクラスの選手が普段やりたいプレー、本能に近いプレーがW杯で見ることができる可能性があるのです。
また、山本氏は、こういったプレーが発揮される理由を方言に例えて説明しています。
「この選手、本当はこういうことをやりたいんだなというのが見えたとき、ワールドカップの醍醐味が感じられますよね。普段はこんなことしてませんが、それをやっちゃってる、みたいな(笑)。生まれついてのリズムが合う人たちと一緒に生活していると、つい方言がでちゃうみたいな話ですよ」(『深読みサッカー論』より山本氏談)
選手の素の部分や、本能の部分を垣間見ることができるW杯は、そういった意味でも楽しみな大会。最も意外なプレーを見せるのは一体誰になるのでしょう。