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大統領が夜な夜な南部の吸血鬼をブチのめす『リンカーン/秘密の書』

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 ごくごく普通のホラーアクションだったら素通りしていたところだが「昼は大統領、夜はハンター」という、素敵なほどアタマの悪そうなキャッチコピーに惹かれて思わず視聴してしまった。リンカーンが吸血鬼ハンターになる過程は大雑把ながら描かれているものの、根本的な疑問である「何で大統領が吸血鬼ハンターをやるんだよ!」という点について納得できる描写は皆無である。

「吸血鬼ハンター」というジャンルで、おおよそのあらすじは予想できると思うが、一応簡潔に記すと、幼少期、母親を吸血鬼に殺害され復讐のため修練を重ねる。成長したリンカーンは昼は大統領として奴隷解放を訴え、夜は奴隷制度を利用して人間を喰らう吸血鬼を倒していくというもの。

 しかも、リンカーンの武器は斧。「何で斧なんだよ!」と日本人で米国の歴史に疎い筆者は思わずツッコミを入れたが、史実のリンカーンの格言に「もし8時間、木を切る時間を与えられたら、そのうち6時間を私は斧を研ぐのに使うだろう」と述べていることを思い出した。この格言は「不測の事態に備え常に準備をしておけ」という意味なのだけれど、本作のリンカーンはもっぱら南部の吸血鬼をブチのめすことのみに使用している。格言が台無しである。

 真面目に鑑賞したら、真面目な映画ファンは憤死しかねないほどデタラメだが米国の歴史やリンカーンの偉業について基礎知識が皆無であれば荒唐無稽過ぎてなかなか楽しい。酒を飲んで視聴すれば主人公が吸血鬼を片っ端から斧で斬殺する様は爽快である。もっとも、そこ以外に特段観るべき点はないのだが......。

 流石に酒飲んだ勢いで与太を飛ばす訳にもいかないのでシラフで再度観たところ「南部の人間を吸血鬼にして大丈夫なのか?」という疑問が湧いてくる。南北戦争の原因が人間対吸血鬼なので、本作ではド直球に「南部の連中はバケモノ」と言っているに等しい。いくらフィクションとは言え、あまりに差別が過ぎないだろうか。

 非米国圏の人間はリンカーンが吸血鬼ハンターという出オチをゲラゲラ笑って楽しめるが、本国の視聴者、特に南部の人間はどう思うのだろうかと考えると問題あり過ぎな気がしなくもない。

(文/畑中雄也)

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