死が怖い、老後が不安...... 70代で脳出血を発症した出口治明が考える、「データと事実」に基づく死生観

老いと死をファクトで考えてみた (扶桑社新書 586)
『老いと死をファクトで考えてみた (扶桑社新書 586)』
出口治明
扶桑社
1,100円(税込)
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 皆さんは、死ぬことが怖いという気持ちはあるでしょうか? もしそう感じるならば、その理由の一つに「人間は正体のわからないものを怖がる生き物だから」というのがあるかもしれません。「お化けが怖い」と思うのと同じように、老後の不安も輪郭がはっきりとつかめないからこそ、実際以上に大きく膨らんで見えるということはないでしょうか。

 それならば、「数字とデータとファクトで、老いとはどういうものかを知り、その不安に輪郭を与えてやればいい」と言うのは、ライフネット生命保険株式会社の創業者で、立命館アジア太平洋大学の学長を務めた出口治明さん。『老いと死をファクトで考えてみた』は、世の中のデータと事実をもとに、終活や人の運、人生の暖流と寒流、未来像などを出口さん流に紐解いた一冊です。

 まず、「死ぬこと」より先に「老いること」を恐れている人もいるかもしれません。出口さんは「老いについて大切なのは『あきらめる』こと」(本書より)だと話します。「あきらめる」というのは「望みを捨てる」ことではなく、「事実を事実として認める」ということ。人は失ったものにしがみつきますが、どうしても変えられないものに気力を注ぐのは割の合わない投資です。

 また、「あきらめるとは、この執着を手のひらから落とすこと」でもあると語る出口さん。これは5年前、70代で脳出血を起こした際、まずできることとできないことを確定させ、そこから「今の自分にできること」を日々やってきた出口さんならではの老いとの向き合い方だと言えるかもしれません。

 今の出口さんが日々大切にしているのは「今日という一日をいかに精一杯生き切るか」。病気は心配してもしなくても、来るときは来るもの。そうであれば、「一つひとつを、上の空でこなすのではなく、ちゃんとやる。今日の自分にできることを、今日の器の分だけやる」(本書より)ことこそが、「精一杯生きること」だと言います。

 そんな出口さんが日々思考する際に愛用しているという、ユニークな道具があります。それが「タテ・ヨコ・算数」という考え方。「タテ」とは時間軸を遡る歴史、「ヨコ」とは世界に向けた視点、そして「算数」がデータとファクトです。

 たとえば、誰かが「日本はもうだめだ」と嘆いていたとしたら、次の3つを考えてみます。「いつと比べてだめなのか(タテ)。どの国とあるいはG7と比べてだめなのか(ヨコ)。何の数字がだめなのか(算数)」(本書より)。こうすることでだめな部分とそうでもない部分が仕分けされて、やみくもな悲観や根拠のない楽観から距離が取れるといいます。老いや死が怖いと感じる人は、この観点から自身の死生観を見つめ直してみるのもよいかもしれません。

 脳出血の後遺症から車椅子で生活する要介護3の認定を受けながら、現在も週に3日は立命館の東京キャンパスに通い、人との会話や読書を楽しみ、イタリアへの旅行も果たした出口さん。「器の容量は増やせないけれど、中身は入れ替えられる」「運は自分では選べないが、泳ぎ方は選べる」「孤独は恐れなくていいが、孤立は避けたほうがいい」など、老いや人生との向き合い方が語られています。

 日本人の平均寿命は男性が81.05歳、女性が87.09歳。どのように自分らしい老後を過ごし、来るべき死を迎えるか、本書を読んで思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]

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