30人が犠牲となった事件と『八つ墓村』 現地取材でたどる着想の原点

「八つ墓村」は実在する ――ルポ「津山三十人殺し」と「落武者殺し伝説」 (ちくま文庫は-29-3)
『「八つ墓村」は実在する ――ルポ「津山三十人殺し」と「落武者殺し伝説」 (ちくま文庫は-29-3)』
蜂巣 敦
筑摩書房
1,100円(税込)
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 横溝正史の傑作ミステリー『八つ墓村』。過去に何度も映像化されてきましたが、中でも1977年公開の松竹映画版では、山崎 努さんが演じる多治見要蔵が、2本の懐中電灯を鬼の角のように白はちまきで頭に巻き付け、猟銃と日本刀で武装して疾走するシーンが、観る者に強烈な印象を与えました。

 このモデルのひとつとされるのが、1938年5月21日未明、岡山県苫田郡西加茂村(現在の津山市)で起きた大量殺人事件、通称「津山三十人殺し」です。今回紹介する『「八つ墓村」は実在する ――ルポ「津山三十人殺し」と「落武者殺し伝説」』は、フリーライターの蜂巣 敦氏が事件の現場を実際に歩き、その背景や実態に迫ったノンフィクションです。

 この作品は、2005年に刊行された単行本を文庫化したものです。取材は2003年から2005年にかけておこなわれており、当時と現在では事情が異なる点があることがうかがえます。

 たとえば、取材当時は事件現場となった集落には生き延びた人々がそのまま住んでおり、この事件が「負の歴史」として生々しく息づいていたであろうこと。

「今回の取材で地元の人間に事件の取材はしないことに決めていた。古傷をふたたびえぐって、不愉快な思いをさせることはあるまいというのが理由だった」(本書より)

 本書によると、集落の墓地には、事件当日の命日のものが多く見られ、中には「妻 殺戮」とれているものもあったといいます。

 また、蜂巣氏が現地を歩いて驚いたのが、犯人である都井睦雄の強靭さです。わずか1時間半のうちに30人を死に至らしめ、その後、重装備のまま山道を約3.5キロ進み、峠の頂上付近で自殺する――これがいかに超人的な体力を持った行動であるかは、蜂巣氏が実際に現地を訪れ、都井の足跡をたどったからこそ実感できたことだといえるでしょう。

 そして、この取材から1年近くが過ぎたころ、蜂巣氏は新たに興味深い話を耳にします。それは、『八つ墓村』で題材となった実話は、中国山脈付近の岡山県の村に伝わる「八人の落武者殺し」の伝説も影響を与えた可能性がある、というものでした。

 そこで蜂巣氏は、この伝説が残るとされた当時の八束村を訪れます。現地で落武者殺しや一揆にまつわる伝承、現代の都市伝説などを調査しながら、その虚実をひもといていきます。

 そんな史実と伝説を巡る旅路の果てに、見つかったものとはなんだったのでしょうか。興味を持った方は、ぜひ本書を読んで確かめてみてください。

 2026年9月18日からは、尾上松也さんが金田一耕助を演じる映画『八つ墓村』も全国公開される予定です。その予習としても、本書は格好の一冊となりそうです。

[文・鷺ノ宮やよい]

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