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プロレス×映画

"ダブルターン"な立場逆転メンヘラコメディ『おつむてんてんクリニック』

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 プロswsレスでは通常、選手のベビーフェイス/ヒール属性(ポジション)が変わることを「ターン」と呼びます。"ターン"は、抗争の区切りで行われるのが普通ですが、極稀に抗争中にお互いの属性が入れ替わる現象"ダブルターン"が発生することがあります。

 そこで今回のお題は、お互いの立場が入れ替わる"ダブルターン"な作品のひとつ、ビル・マーレイとリチャード・ドレイファスという名優競演の『おつむてんてんクリニック』(1991)。

 複数の疾患(潔癖症、閉所恐怖症、外出恐怖症、etc.)を抱えたボブ(マーレイ)は、ベストセラー本も出す著名医師レオ(ドレイファス)を紹介され、その手腕に感銘。ところがレオが家族休暇を取るため長期休診に。
 レオに心酔してしまったボブは、レオの別荘の住所を突き止め、ご近所さんに居候開始。一方のレオは別荘で収録予定のTVインタビュー取材を邪魔されたくないため、厄介者ボブを追い払おうとするのだが......。

 ボブが法律的に完全にアウトなストーカー行動で、真っ当な精神科医レオの休暇をブチ壊しにする構図で始まるため、この時点では、ボブが"ヒール"で、レオが"ベビーフェイス"。
 しかし、奇怪なボブの方が、レオの気の弱い息子や、思春期の娘と上手く交流出来ているのに、実の父であるレオは自分のことばかり。挙句、取材に来たTV局スタッフがボブの勝手な出演希望に乗っかってしまい、レオの狂気が爆発。
 人あたりが良くなったボブは"ベビーフェイス"となり、狂気に駆られるレオは"ヒール"に。

 変人役ならお任せのマーレイ御大だけに、序盤のボブのウザさ加減はさすがの安定感ですが、イヤミなスノッブ気質や無制御状態に陥るレオ役のリチャード・ドレイファスの怪演ぶりがあってこその"ダブルターン"といえます。

 本作同様、真っ当な言動をしていた善玉が嫌われ者となり、自己中ヒールが人気者になるという実例として知られるのが、1996年頃のWWE(WWF)におけるブレット・ハートとストーンコールド・スティーブ・オースチンの抗争(※)。

 当時、オースチンのような破天荒なヒーロー像が求められ、ブレットのような正統派ベビーフェイスは毛嫌いされる時代背景もあり、会社側の要請で立場を逆転。WWE側の資金難などの要因もあったものの、この"ダブルターン"以降、ブレットと会社側(マクマホン会長)との折り合いは悪化。結果としてかの悪名高き"モントリオール事件(※)"が起きています。

 話し戻って、ハッピーエンドっぽいけど実際はそうでもない立場逆転のオチは人を選びますが、「人間なんて紙一重」というテーマを撮り続けるフランク・オズ監督らしい本作。細かな設定や衣装、思わぬ伏線(レオを恨む老夫婦に注目)などにも遊びがあって、ニヤリと出来るハズ(酷い邦題は無視しましょう)。勿論みどころは、プロレス同様"ダブルターン"の瞬間ですよ!

(文/シングウヤスアキ)

※ 当時のブレットに密着したドキュメンタリー映画『レスリング・ウィズ・シャドウズ』でも紹介されています。尚、モントリオール事件当時の関係者とブレットは2010年に和解しています。

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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