50歳で新聞社を退社、服は9割減 稲垣えみ子が「買わない生活」で得た幸せとは

買わない生活
『買わない生活』
稲垣 えみ子
東洋経済新報社
1,980円(税込)
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 人はなぜ働くのか。「好きなものを買いたいから」という思いが、働く原動力の一つになっている人もいるでしょう。逆に、働かなければお金は入ってこないのだから、欲しいものが手に入らなくても当然だと考える人もいることでしょう。

 50歳でそれまで働いてきた大手新聞社を辞めた稲垣えみ子さんも、給料が入らなくなったことで「買うこと」を諦めなくてはならなくなった一人です。しかし、買わない生活を始めたことで、快適な暮らしに健康、時間、人間関係、さらには老後の安心まで転がり込んできたというから驚くばかり。今回紹介する『買わない生活』は、稲垣さんがどのように最強に幸せなライフスタイルを手に入れたのかを綴った記録であり、エッセイでもあります。

 稲垣さんが始めた「買わない生活」は、まずは身近な衣食住から。基本の食生活は玄米ご飯に汁物、漬物、海苔という極めてシンプルなもの。紹介されている食事は、一食トータル100円ほどで済むといいます。さらに、引っ越した新居には収納スペースがなかったことから、手持ちの服を9割削減。化粧品も処分し、スキンケアに使うようになったのはごま油のみ。さらに、シャンプーやリンス、ボディソープ、歯磨き粉までもやめたそうです。しかし、慣れてしまえばなんの支障も感じないどころか、肌は乾燥知らずで冬でもしっとりしているといいます。

 稲垣さんいわく、「私が得た最大のものは、お金よりも何よりも、自分の体に対する信頼」(本書より)とのこと。自分は何かが足りないと思っていろんなものを買って補ってきたけれど、画期的な商品など買わなくとも、ほんの少し気を配ってあげれば、体はちゃんと健やかな状態でイキイキと頑張ってくれる。それまで使っていた化粧品などを手放すことで、「自分は自分のままでよかったのである。足りないものなんて何もなかったのだ」(本書より)という気づきを得ることとなりました。

 これらを見てもわかるように、稲垣さんにとって「暮らしを小さくすること」は、みじめなことでもなんでもなく、「自分の能力を高めていく大いなるチャレンジ」(本書より)。稲垣さんは発想の転換により、さらに自身を変えていきます。

 引っ越した先は築50年の収納が一切ない部屋ですが、これも考え方次第。「家の定義を変える作戦」により、「わが家の機能を町全体に解き放つ」ことに成功したのです。どういうことかというと、近所の古本屋さんはうちの本棚であり、古着屋さんは自分のクローゼット。近くのカフェはいつも淹れたてのコーヒーを出してくれる書斎であり、徒歩3分の銭湯は豪華な温泉旅館と捉えるのです。この「町がわが家」という概念は、稲垣さんにとって「所有することは豊かである」という資本主義的な価値観を根本から覆したものでもありました。

 その後も、お金に振り回される生活をやめたことで、それまでとはまったく異なる世界が広がっていく稲垣さん。お金ではない頼れるものが増えたことで日々の不安が消え、心から安心して生きられるようになったといいます。正直、すべての人が稲垣さんと同じ生活を実践するのは難しいでしょう。しかしもし、消費するばかりの生活に疲れを感じていたり疑問を抱いたりしているならば、本書からきっとさまざまな気づきを得られるのではないでしょうか。自分にとって幸せとはどのような状態であることなのか。本書はそのことについて改めて考えさせられる一冊です。

[文・鷺ノ宮やよい]

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