ハイリスク・ハイリターンの3D映画-近日公開の「トランスフォーマー3」の実力は?

キネ旬総研エンタメ叢書 3Dは本当に「買い」なのか
『キネ旬総研エンタメ叢書 3Dは本当に「買い」なのか』
キネマ旬報社
1,404円(税込)
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 現在、テレビやゲーム機、デジタルカメラなど、さまざまなジャンルで3D対応をうたった製品が登場しています。これまでの映像が2D(2次元)という平面世界しか表現できなかったのに対し、3D(3次元)製品はそこにプラスアルファとして立体や奥行き感を提供します。

 これらの3D製品の基本原理は、「左右の目に異なる映像を見せる」というもの。このメカニズムを説明するには、まず人間はどうやって立体を認識しているかということを理解する必要があります。書籍『3Dは本当に「買い」なのか』にそのわかりやすい解説が掲載されているので、簡単に紹介しましょう。

 例えば、目の前に指でもペンでもなんでもいいので置いてみてください。次に、目の前に置いたその対象物を左目、右目だけで順番に見つめているとどうなるでしょうか?

 左目で対象物を見た視界と、右目で対象物を見た視界が微妙にズレていることに気づくはずです。対象物を手前に移動し、同じように左右の目で見ると、視界のズレはさらに大きくなります。一方、対象物を奥へ持っていき、徐々に目から離していくと、位置のズレは小さくなっていきます。これを「両眼視差」(りょうがんしさ)と呼びます。人間の左右の目が約6センチ離れていることによって生じる、左目と右目の視界のズレのことです。

 また、先ほど対象物を近づけた際、あなたの目はどのようになっていましたでしょうか。きっと寄り目になっていたはず。そして、対象物を遠ざけるにしたがって、寄り目の状態が薄れていき、通常の状態に戻ったと思います。

 こうした両目の動きを「両眼の輻輳(ふくそう)」と呼びます。さらに、左目-対象物-右目を直線で結んだ際に対象物を頂点として生じる角度のことを「輻輳角」と言います。人間は、近景を見る場合は寄り目になって対象物と両眼の視線を結ぶ線の角度、すなわち輻輳角が大きくなり、反対に遠景を見る場合は、輻輳角が小さくなります。

 つまり人間は、両眼視差によって生じる、左目と右目で見た誤差のある映像を元に脳内でひとつの映像を合成し、立体感のある映像を作りだしているのです。これに加えて、両眼の輻輳の働きも組み合わせることで、対象物との距離感を得ています。

 "両眼視差"とか"輻輳"などという専門用語を出すと、ちょっと難しく感じるかもしれませんが、現在の3D表示システムの多くは、この両眼視差と両眼の輻輳を人工的に再現したものなのです。

 では、3D映画はどうやって撮影しているのでしょうか。

 3D映像とは、左目と右目に異なる映像を送り込むことによって成立するビジュアルのため、人間の目と同じように2台のカメラを同時に使用し、左目用と右目用の映像を撮影します。

 しかし、2台のカメラで同時に撮影する際に厳密な調整が必要になってきます。カメラの位置に際しては2台の水平や垂直位置を厳密に合わせることはもちろん、輝度や色調も完全に一致させなくてはなりません。こうした設定を正確に行わないと、左右の映像にズレが生じてしまい、うまく立体視が行えない3D映像になってしまうからです。

 3D映画の撮影は、現状においては非常に手間がかかる上に、3D映像の扱いに熟練した専門スタッフも必須。さらに、カメラ2台を可動式スタンドの上に並べた特殊カメラが必要になるほか、撮影した3D映像を編集するための機器もそろえる必要があります。

 2D映画と比べると、3Dの製作部分でコストがかさんでしまうため、制作費は自ずと跳ね上がってしまいます。巨額の制作費を回収するためには、大きな興行収入を見込める大作映画である必要があるわけです。

 今週末に、3D大作『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』が日本公開されます。この映画を撮ったマイケル・ベイ監督は、当初3Dで撮影するつもりはなかったそうです。しかし、『アバター』で成功したジェームズ・キャメロン監督に、「マイク、3Dだよ。この新しい道具で映画をもっと面白くできる」と強力にプッシュされ、「それから3Dを1年ほど勉強し撮影した」とインタビューに答えています。

 すでに日本公開前に驚異的な興行成績を叩き出していますが、もし失敗に終わったとしたら、巨額の損失を負うことになる3D映画。"ハイリスク・ハイリターン"覚悟で制作に臨んだスタッフたちの心境を想像しながら鑑賞してみると、また違った見方ができるのかもしれません。

【関連リンク】
『トランスフォーマー/ダークサイド・ムーン』オフィシャルサイト

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