BOOKSTAND特別企画

カリスマ塾講師&教育のプロが薦める
「今、本当に小学生に読んでもらいたい本」大賞

青少年読書感想文コンクール用の図書として文部科学省が指定する「小学校の課題図書」。基本的に「日本全国の小学生」が読める内容の本を選書するため、一部、教育関係者の間からは「勉強ができる小学生にはマッチしていない」との声もチラホラ。

そこでブックスタンドは、"選者"を代えてみたら面白くなるのではないかと思い立ち、現在、ハイスペックな小学生高学年を対象に中学受験指導をしているプロ教育者の方々に「いま本当に小学生に薦めたい課題図書を教えてほしい!! 」と伝達。中学受験業界を代表する5名のトップランナーに、おすすめの作品を選んでもらった次第です。

予想通り、従来の「小学校の課題図書」とはかけ離れたユニークな作品群がラインナップされました。最終的には、下記作品をテーブルに並べ、プロ教育者5名による徹底討論によって「ベスト作品」を決定します。発表は7月15日予定! ご期待ください!!

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西村則康(にしむら のりやす)

名門指導会代表/塾ソムリエ

35年以上、難関中学・高校受験指導を一筋に行う家庭教師のプロフェッショナル。日本発の「塾ソムリエ」としても活躍中。一つの解法を押しつけるのでなく、その子に合った方法を瞬時に提示する授業で、毎年多数の生徒を最難関中学の合格に導く。

これまでに男子御三家の開成、麻布、武蔵、女子御三家の桜蔭、女子学院、雙葉をはじめ、灘、洛南高附属、東大寺学園、神戸女学院などの最難関校に2500人以上を合格させてきた実績を持つ。
 受験学習を、暗記や単なる作業だけのものにせず、「なぜ」「だからどうなる」という思考の本質に最短で入りこむ授業を実践する。

また、受験を通じて親子の絆を強めるためのコミュニケーション術もアドバイスする。

家庭教育雑誌や新聞などで積極的に情報発信を行っており、保護者の悩みに誠実に回答する姿勢から熱い支持を集めている。

著書に『中学受験は親が9割』(青春出版社)、『子どもがぐんぐんやる気になる魔法の声かけ』(主婦と生活社)ほか多数。

西村先生が薦める「今、小学生に読んでもらいたい本」

【文学編】
『偶然の祝福』 小川洋子著 (角川文庫)――「キリコさんの失敗 」

どこにでもありそうな日常が描かれているのに何か不思議な感じがします。日常で偶然に起こったいろいろな出来事は、あとから考えてみるとなにがしかの印象を残しているものです。心の痛みを伴って思い出されることやしみじみと暖かい情感を伴って思い出されること、それらすべてを人生の「偶然の祝福」と捉えようとしている著者の一貫した姿勢を感じることが出来ます。登場人物が多くはありませんから、小学4年生あたりでもスムーズに情感の中に入り込んで楽しめます。

『冬のはなびら』 伊集院静著 (文春文庫)――「雨上がり」

この6つの短編の主人公は職業と生きる意味が強く結びついた人たちです。人と人の間に流れる温もりや職業への誇りを強く感じることが出来る作品です。明日のテストのための勉強に汲々と取り組んでいるうちに心が狭くなってしまった小学生に是非読んでほしい本です。誇りを持って仕事に取り組む主人公たちの心情を読み取ることで、今の汲々とした受験勉強をどっしりとした腰の落ち着いたものに変えてくれる効用までをも期待してしまいます。

『ロング・ロング・アゴー』 重松清著 (新潮文庫)

入学試験で定番とも言える作家です。あまり細かく書き込まず簡略化した筆致であるにもかかわらず、それでいて情景をはっきりと思い描くことが出来ることが、入試問題に多く採用される理由のような気がします。この本に収められている6編はすべて「再会」がテーマ。そしてその底流には主人公である子どもを取り囲む家族を感じます。巻末の「文庫本のためのあとがき」も必読です。

【教養編】
『ウナギ 大回遊の謎』 塚本勝巳著 (PHPサイエンス・ワールド新書)

ニホンウナギの産卵場所が特定するまでの冒険記とでも言える内容です。一方、文章は平易で読みやすいものです。ウナギ研究の権威である筆者が、その地道な探査の経緯と成功までの過程を客観的な事実の積み重ねとして書いています。研究者がどのように仮説を立て、それをどのように検証しようとしたかを読み取ってほしいと思います。写真や図版も楽しく見ることが出来ます。

『科学の考え方・学び方』 池内了著 (岩波ジュニア新書)

科学者の良心を感じ取るとともに、科学の深淵を垣間見るのに最適な書物です。著者のあとがきに、「現代の科学者から未来の科学者への期待と励ましのメッセージ」と書かれています。その通りの内容だと言えます。時には、小学生には難しいxyz3次元の話や角度θが入っていますが、それらの部分を省いて読んでも良いでしょう。特に2章の「科学の考え方」は必読です。

『昆虫はすごい』 丸山宗利 (光文社新書)

昆虫嫌いの子ども(大人もそうらしい)が増えたために、学習ノートの表紙写真から昆虫が消えたことがニュースになるようなご時世にもかかわらず、発売直後に大増刷。分類学上の専門用語を極力避け平易な言葉を使っているために、読みやすく、小学生にも十分読めるものとなっています。特に第1章の「どうしてこんなに多様なのか」は、よく知っている"完全変態"や"不完全変態"の話題もあり興味深く読めることと思います。

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繁田和貴(はんだ かずたか)

個別指導塾TESTEA塾長

開成中・高を経て、東京大学経済学部卒。小学生時代に有名進学塾SAPIXで3年連続1位を保ち続け、中学受験では開成、筑駒、慶應、灘、全て合格。「10年に1人の逸材」としてTV取材を受ける。中学時代は派手な遊びで退学寸前になる一方、「遊びの時間を作るため」編み出した独自の学習法を駆使して学年トップの成績をとり、破天荒な生活ぶりから学年一の有名人に。東大在学中には古巣SAPIXで指導にあたり、男女御三家をはじめ難関校に合格者を多数輩出、教育への熱い思いを抱くようになる。

一方で、自身の大学生活には意義を見出せず、留年を重ねた。「目的意識なく受験してもどこかで崩壊する」ということを学んだ自らの経験を活かすべく、2006年に個別指導塾TESTEA(テスティー)を開校。生徒のモチベーションを高め、勉強法を次々改善していく高い指導力と人間的魅力で、生徒・保護者からの信頼は絶大である。現在はTESTEAで指導を続けるかたわら、執筆活動や講演活動、メディア出演等を精力的にこなしている。

繁田先生が薦める「今、小学生に読んでもらいたい本」

【教養編】
『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶應大学に現役合格した話』 坪田信貴著(KADOKAWA)

ついに100万部突破となり、大ベストセラーの仲間入りを果たした本書。 現役の塾長が生徒指導の様子を臨場感たっぷりつづった本ということで、職業柄とても共感できる。 テンポのよい会話中心なので小学生にも読みやすく、笑いのポイントも満載。そんな中に、受験に挑むにあたっての大切な心構えや、親や教師など周りの大人とのかかわり方の理想形が描かれている。 ぜひ親子で読んでいただきたい一冊。

『ゼロ―――なにもない自分に小さなイチを足していく』 堀江貴文著(ダイヤモンド社)

ご存知、ホリエモンの本。彼の生い立ちや持論が、語り口調で書かれていて読みやすい。 小学生だと、ホリエモンという名前は知っていても、どんな人物か知らない人も多いだろう。 下手したら「逮捕された人」「犯罪者」という認識「しか」持っていないかもしれない。 しかし彼の言葉の端々からは、生きることへの情熱や未来への希望がにじみ出ており、本質的にはとても人間味にあふれている。目的も持たずになんとなく受験勉強をしている生徒には是非、読んでみてほしい。

『いま、君たちに一番伝えたいこと』 池上彰著(日本経済新聞出版社)

テレビでもおなじみの池上彰さんが、近年話題となっているニュースをネタに、わかりやすい解説を加えながら語る本。本書を読むことで、自分なりの「意見」や「考え」を持ちながらニュースを見るようになってほしいと思う。池上節は一朝一夕で真似できるようなものでは到底ないが、考察の加え方や物事を見る視点は大いに参考になるはずだ。朝のニュース等でなんとなく見聞きしていた内容も多いはずなので、背景を改めて理解するための教養本としてもおススメ。

『僕はミドリムシで世界を救うことに決めました。』 出雲充著(ダイヤモンド社)

ミドリムシという名前を聞いたことのある生徒は多いだろう。理科で登場するあの微生物である。しかしコイツが世界のエネルギー問題や食糧問題を解決する救世主となるかもしれないことは、知らない小学生も多いと思う。本書は、世界初のミドリムシ屋外大量培養技術を確立した、株式会社ユーグレナ社長・出雲充さんの、ミドリムシにかける思いをつづった本である。強い思いがあれば、夢はかなう。世界も変えられる。そんなロマンを感じられる本。これからの未来を担っていく小学生にぜひ読んでほしい一冊。

『図解 頭がいい人はなぜ、方眼ノートを使うのか?』 高橋政史著(かんき出版)

教育現場では様々な指導が実践されているが、意外と盲点なのが、ノートの書き方・使い方の指導。「きれいに書きなさい!」という説教は度々なされるが、「きれい」とはどういうことなのか。「文字をきれいに書く」や「行頭をそろえる」といったこと以外に、具体的な指示がないのも現実ではないだろうか。本書のメソッドを参考に正しい型(フレーム)を作ることで、見た目がすっきりするだけでなく、あとから振り返りやすい「使える」ノートになる。社会人をメインターゲットとして書かれた本だが、図や写真が豊富で小学生でも活用できる部分はあるだろう。

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松永 暢史 (まつなが のぶふみ)

教育相談事務所V-net(ブイネット)主宰

海外旅行の資金稼ぎのために始めた家庭教師が好評で、そのまま就職せずに家庭教師として活動......今や個人指導歴40年。音読法、作文法、入試国語記述法、暗算法など様々なメソッドを開発。自称『教育環境設定コンサルタント』として講演、執筆など多方面で活躍中。教育と学習のあらゆる悩みに答える教育相談事務所V-net(ブイネット)主宰。現在、母親音読会のような言語力強化の活動にも力を入れている。また子どもの活性化のために、焚火を推奨。中高生にリベラルアーツの授業も行っている。主な著書に『ガミガミ言わずに子どもに勉強させる方法』(PHP文庫)、『ひとりっ子を伸ばす母親、ダメにする母親』(アスコム)、『男の子は10歳になったら育て方を変えなさい』(大和書房)、『将来の学力は10歳までの「読書量」で決まる!』など、多数。

松永先生が薦める「今、小学生に読んでもらいたい本」

【文学編】
『新約聖書』--マタイ伝 (岩波文庫)

ユダヤ教教典の旧約聖書、キリスト教教典の新約聖書は、どちらも現代世界をリードする西洋人の考え方の元を知る上で一読が欠かせない。小さい頃からこういった話を聴いて育つ西洋人が作っているのがその文学の世界であり、その基となっている思想の話を吸収しておくことは、これから多くの本を読んで行く上で重要である。『聖書物語』のような簡単なものでもよいが、信者以外が参考にするのは、岩波文庫版などが良いだろう。

『ギリシア神話』 アポロドーロス著 (岩波文庫)

これは、後のヨーロッパキリスト教思想の土台となったもので、聖書も最初はギリシア語で書かれたと思われる。西洋人たちは、学校でギリシア語かラテン語を学ぶことが多く、そこに出てくる物語は、彼らの思考を形作る上で重要な役割を果たしている。一度は知っておく必要があると思う。多種の本が出ているので、自分に合ったものを選んで読むと良いと思う。ちなみに、ギリシア神話の教養がないと、ルネサンス期以降の絵画を見ても何を描いているのかさっぱり理解できない。

『ジャン・クリストフ』 ロマン・ロラン著 (岩波文庫)

ロマン・ロランは1915年にノーベル文学賞を受賞したフランスの作家である。この作品はその直前に発表されたもので賞の授与に大きく貢献したと思われる。ベートーベンがモデルとされる主人公のジャンが、困難と貧苦と戦いながら、自立し成長し大作曲家への道を歩んで行くというもの。私は何も、この大河小説だけを推したいのではない。19世紀以降に発達するヨーロッパ文学の一つの柱としてのビルディングスロマン(=教養小説)を味わって精神的な自立を促すとともに、ヨーロッパ人の考え方、感じ方、そしてその後の多くの作家が繰り返し用いるテーマを、物語文問題の解き方を学ぶ前に知っておいて欲しいのである。もし文庫では困難な場合、ダイジェスト版でもお勧めできる。

【教養編】
『論語』 金谷治訳注 (岩波文庫)

中学受験に役に立つとは、そこで読まされる文章を書いた大人が、背後にどのような考えを持っているかということをあらかじめ知るということ。つまり、大人の考えの基になっているものを読んでしまうこと。『論語』は、長い間、我が国を含めた東アジア地域で大きな思想的な影響を持った儒教の考え方を伝えている。こういうものを「良い」と信じた人たちによって、中国や韓国や日本の思想体系や支配体系、そして文化が作られたのである。またこの『論語』の内容からは引用も多い。一度は読んでおかないと、大人の考えが分からない。

『ソクラテスの弁明』 プラトン著 (岩波文庫)

賢者ソクラテスが公開議場で死刑が決定されるまでの言動を、弟子のプラトンが記録したのがこの本。「財産や社会的地位獲得を第一義に掲げるのではなく、魂の最大限の向上可能性を追求するのが本当の人間としての生き方である」。この言説は、後のあらゆる哲学者が思考するときの大きな礎となった。これを知らないと、西洋近代の思想を吸収した日本人学者の文章を理解することはできない。彼らにとってこの本の内容は「常識」である。短いので是非読んでしまって欲しい。

『ブッダのことばースッタニパータ』中村元訳 (岩波文庫)

我が国はどうも仏教の国ということになるらしい。歴史の勉強でも繰り返し仏教に関することが出てくるはずだ。でも、そこに出てくるのは、そもそもの仏教から派生した物である。そもそもが優れていたからこそ、仏教はアジア全体に広まったに違いない。ではその大本のブッダはそもそもどのようなことを語っていたのであろうか。この本は、パーリ語文献からの直訳なので、余計な解釈抜きにお釈迦様の直接の言葉を学ぶことができる。すると、日本における仏教的な思想も客観化できるというわけだ。

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小川大介(おがわ だいすけ)

中学受験専門個別指導教室SS-1 代表
中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員

京都大学在学中に、関西の中学受験進学塾の最大手「浜学園」で国語講師を始める。

1999年、「生徒一人に一つの塾を」というプロ講師による個別指導教室というコンセプトに共感し、中学受験専門個別指導教室SS-1の設立に参画し、SS-1の事業部長として、お子さんが最速で最高の結果を出すためのコーチング技術や、心理療法的なアプローチを取り入れたSS-1独自の指導方法を開発。

2008年、「中学受験情報局 かしこい塾の使い方」の開設に参画。同サイトへの受験指導ノウハウ提供を通じ、より多くの中学受験に悩むご家庭へ、楽しく取り組める中学受験を広め続けている。情緒的、感覚的な教科だと思われやすい「国語」という科目を、論理的にわかりやすく読み解き、なおかつどう学べば楽しいかという視点を常に意識した指導やコメントを行うことができ、各メディアで解説や評論、指導技術提供などを精力的に行っている。 著書に『SS-1メソッドで国語の点数を一気に上げる』(ごま書房新社)、『小川式「声かけ」メソッド』(宝島社)などがある。

小川先生が薦める「今、小学生に読んでもらいたい本」

【文学編】
『小さな町の風景』 杉みき子著(偕成社文庫)

45編の短編となっており、学年を問わずとっつきやすい本です。一話完結の小編それぞれで、ひとつの小さな町の風景が丹念に描かれ、互いを補完しあって、読み終える頃にはこの町のことを懐かしく感じられることでしょう。情景描写に心情が込められ、幻想的文章が少し含まれるなど、幅広いジャンルの作風になっている点も魅力的です。無駄な言葉を排したシンプルでキレのある文体ながら、味わい深い言葉の数々に触れることは、子どもたちの言葉の感性を豊かに育ててくれるものと思います。読み込む程に味の出てくる作品です。

『ブレイブ・ストーリー』 宮部みゆき (角川文庫)

父の浮気、離婚、母の自殺未遂と家族が崩壊していく中、運命を変えるために異世界へ旅立つファンタジー。丹念に描き出された現代社会の歪みの中、主人公が迷い、悩み、もがき苦しむ姿に、読者はそれぞれの自分の姿を重ね合わせることでしょう。そして、決して絶望には至らない展開に勇気をくみ取ることでしょう。ファンタジー世界と現実世界とが巧みに綾なすストーリーを軽快に読み終えた先に「運命は変えられないけれど自分は変えられる」というメッセージを得た時、子どもたちの眼前に広がる社会はそれまでと違った顔をして見えてくるでしょう。

『銀河鉄道の夜』 宮沢賢治著 (新潮文庫)

宮沢賢治の最高傑作と言っても良い作品です。ジョバンニが親友のカンパネルラと共に、夢とも現実とつかぬなか、銀河鉄道にのって宇宙の旅に出る。幻想的な世界観と印象に残る言葉の数々が、読者である小学生の心をつかんでいくでしょう。生と死を縦軸に、ふるさとと宇宙の広がりを横糸として、生きるとはどういうことか、幸せとは何かを考えさせる深く重い内容ですが、読後感に心のぬくもりを感じる童話です。言葉の美しさ、日本語の響きの豊かさを味わいながら、子どもたちに耽読して欲しい本の一つです。

【教養編】
『ときめき昆虫学』 メレ山メレ子著 (イースト・プレス)

ふざけた名前ですが、昆虫の専門家でも何でもないOLさんが、有り余る昆虫愛を惜しむことなくつぎ込んだ渾身の一冊です。とはいえ昆虫の生態的な基本知識はちゃんと押さえてあるので、ただの素人の自己満足本ではまったくありません。最近の都会では、虫が嫌いという子供も増えているので、この本に触れて好奇心を掻き立てられる小学生が出てくるといいですね。最後に、内容だけでなく、レイアウトや装丁、写真など本としての造りも面白いので、日ごろ本にあまり縁のない子でも新鮮な気分で楽しめるでしょう。

『目玉の学校』赤瀬川原平著 (ちくまプリマー新書)

前衛美術家であり作家の赤瀬川原平さんの作品。見ることの不思議から始まり、目玉の持つ秘密に迫る一冊です。身の回りの日常をそのままにせず、実験と観察を繰り返し、自分自身で発見と納得を得ていく様子からは、「常識的な意見に対する疑問」を学べるでしょう。学習の場面に限らず、人と意見を出し合う場では「一般論を紹介しながら論理的に独自の意見を展開していく」力が求められますが、この作品を最後まで楽しんだ時、その論理力の一端が備わってくるように思います。

『ソフィーの世界 哲学者からの不思議な手紙』ヨースタイン・ゴルデル著 (NHK出版)

西洋哲学史の入門書として評価されがちな本ですが、小学生にとっての最大の価値は「対話」を自然と体感できる点にあります。与えられたものを理解する、覚えるという学習に陥りがちな子どもたちにとって、本に問いかけられ、また自分自身が本に問いかけて読み進める体験は、学びの構造を変えうるインパクトを秘めています。ぜひ「体験」してもらいたい書です。

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村上綾一(むらかみ りょういち)

理数系専門塾エルカミノ 代表

巣鴨高校卒。早稲田大学卒。大学卒業後、大手進学塾の最上位指導や教材・模試の制作を経て、東京に株式会社エルカミノを設立。株式会社エルカミノ代表取締役。出版・教育事業をおこなう。教育部門「理数系専門塾エルカミノ」では直接授業も担当し、生徒を東大、御三家中、数学オリンピック、算数オリンピックへ多数送り出している。 算数オリンピックの問題作成。また、2008年公開映画デスノート『L change the WorLd』で数理トリックの制作を担当。パズル作家としても活動している。 著書に、『自分から勉強する子が育つお母さんの習慣』(ダイヤモンド社)、『人気講師が教える理系脳のつくり方』(文藝春秋社)、『面積迷路(第1集~第4集)』『立方体の切断の攻略』『図形の回転移動の攻略』(学研)、『大人もハマる算数パズル』(PHP研究所)など多数。

村上先生が薦める「今、小学生に読んでもらいたい本」

【文学編】
『モモ』 ミヒャエル・エンデ著 (岩波少年文庫)

時間どろぼう「灰色の男たち」と、不思議な少女モモの物語。時間とは何かを問う、ミヒャエル・エンデの名作。私たち現代人は「よい暮らし」を夢見て寸暇を惜しんで働き、勉強している。しかし、時間に追われる生活が本当に幸せだろうか。見せかけの豊かさにすがっていないだろうか。心の余裕をなくした現代人に、モモが時間の大切さを気づかせてくれる。生まれた時にはすでにネットや携帯電話があり、便利なものに囲まれて育った小学生にこそ読んでもらいたい。

『博士の愛した数式』 小川洋子著  (新潮文庫)

「ぼくの記憶は80分しかもたない」――記憶力をなくした博士と家政婦とその息子の3人が、数学を通じて交流していく、悲しく温かい物語。数学は芸術であり、数学を好きになるか否かは、数学の美しさを知るか否かでしかない。本書はその美しさをわかりやすく伝えている。数学が好きになる1冊。

『竜馬がゆく』 司馬遼太郎著  (文春文庫)

今回の企画を聞いたとき、「司馬遼太郎の小説を紹介したい!」と思った。私を読書好きにさせた1冊は松本清張の「点と線」、もう1冊は司馬遼太郎の「城塞」だった。中学1年生の春、この2冊を父親の書斎で見つけたことが、私の人生を変えた。小学生に松本清張は早すぎるが、司馬遼太郎なら読めるはずだ。名作揃いの司馬遼太郎作品のなかで、小学生にも読みやすいのは「竜馬がゆく」だろう。読み終わった後、「自分は何かを成し遂げなければならない」という高揚感に包まれる。

【教養編】
『ふしぎの植物学』田中修著 (中公新書)

 中学受験生を指導していると「理科は好きだけど植物を覚えるのは嫌い」という声を聞く。おそらく植物を暗記科目と思っているのだろう。しかし植物はおもしろく、意外で、知恵があり、なにより一生懸命生きている。そのメカニズムと工夫を知ってほしい。難しい項目は読み飛ばしてかまわない。次から次へと植物の知恵が紹介される。そのうちひとつでも記憶に残れば、きっと植物が好きになるだろう。

『宇宙への秘密の鍵』スティーブン・ホーキング著  (岩崎書店)

車いすの天才物理学者ホーキング博士が著した児童書。物語仕立てになっているが、随所で科学用語に関するコラムとカラー写真があり、宇宙の仕組みを学ぶには最適な入門書となっている。 作中では、宇宙だけでなく高校レベルの物理学もわかりやすく説明されている。「ブラックホールってなんだろう?」「ブラックホールに近づくとどうなるのだろう?」そんな疑問を覚えたらぜひ読んでほしい。

『まちがったっていいじゃないか』森毅著  (ちくま文庫)

数学者・森毅のエッセイ。中学生に向けて書かれたものだが、小学生でも読める。最近は、繊細で神経質な小学生が増えていると感じる。自然の遊び場が減り、小さいころから競争と比較のなかで育った子には、「道を誤ってはいけない」「(大人から見た)良い子でなければならない」というストレスが強くかかっている。もっと気楽に生きてほしい。知らぬ間にすり減っている心を楽にしてくれる1冊。