新しい自分に出会いたいなら海外へ行くのがベスト。『コンプリート・アンノウン〜私の知らない彼女〜』

　ワーキングホリデーや留学で海外に行く人の中には「まったく新しい自分として人生をスタートさせたい」という思いが動機になった人も多いのでは。私も留学中、人間関係がうまくいかなかったり、彼氏と別れたり......「もう今の自分にはなにも残っていない」、そんなふうに感じたことがきっかけで留学した人と多く出会いました。海外で生活するって結構勇気がいることだけど、人生をやり直したいならそれは最善の方法なのかも。『ナイロビの蜂』などで知られる英国女優レイチェル・ワイズ主演の『コンプリート・アンノウン〜私の知らない彼女〜』を観れば、妙に納得いくかもしれません。

　ニューヨークに住むトム（マイケル・シャノン）は誕生日を迎え、自宅でパーティーを行うことに。しかしパーティーの直前、アクセサリーアーティストで妻のラミーナにカリフォルニアで本格的に勉強したいと告げられ、困惑。しかもバースデーケーキの名前がトニーになっていることに気づき「いろいろついていないな〜」なんて不機嫌に。そしてさらに追い討ちをかける出来事が......トムは自分の同僚が連れてきた女性アリス（レイチェル・ワイズ）と出会い衝撃を受けます。それはなんと15年前の元恋人、ジェニーだったから！　名前を変え、突然目の前現れたアリスにワケを詳しく聞くトム。アリスはこれまで中国やタスマニア、南アフリカなどで自分の名前を変え、まったく新しい自分として生活していて、彼女が国を変え人生をリセットした回数は9回にも及ぶのだとか。なぜ彼女は過去の人間関係を断ち切ってまで新しいアイデンティティーを生み出し続けるのだろう......。トムはだんだんとアリスの過去とその心理に関心を抱くのでした。

　注目してほしいのは、トムとアリスが足首を捻挫したおばあさんを助けるシーン。アリスはおばあさんを連れて帰るその道のりですら、新たなアイデンティティーを生み出します。彼女は心臓外科医を装い、トムのことをトニーと呼び、彼は整骨医だとでっち上げるのです。トムはアリスの無茶振りから"トニー"としておばあさんに振る舞い、簡単な診察をしてあげるのですが、そうして「新しい自分」であるトニーを演じたことによって快感を覚えるのです。自分を変えたいと思っていないトムが、ふとしたことがキッカケで新たな自分に出会うシーン。なんとも興味深いです。

　アリスのように9回も人生をリセットするのはさすがに大変そうですが、きっと誰も自分のことをしらない場所で新しい自分を作り出せば、過去がリセットされ新鮮な気持ちになれるのかもしれない。自分をリセットしたい、新たな自分に出会いたい！　そう感じるならまず本作を観てアリスの世界を参考にしてみてほしいです。

（文／トキエス）