碇のむきだし

碇本学

2021年5月24日号

『ヴェイパー』 海の匂いがした。 どこか懐かしくて、でも、もうそこには留まれないことがはっきりとわかる風の流れが肌を撫でた。「あさしおこばし」とひらがなで書かれた文字のプレート、そこから見えるのは東京湾だった。海水は緑というか碧というほうが合っている揺らぎで、橋の上には彼女たち二人しか歩いていなかった。欄干によりかかるようにして目の前にある東京湾の一部を見る。そこは地図アプリでは「朝潮運河」と表示されていた。「危ないので、橋の上によじ登らないでください。」と中央区からの注意書きもあった。 三十二歳を迎えたばかりの繭実春【まゆみはる】も、彼女よりも七歳下の三秋周【みあきしゅう】もそんなことはしない。代わりに誰も来ない橋の中央で踊るように回る。二人の手は繋がれていてグルグルと回って、満面の笑みがこぼれる。彼女たちが向かおうとしている橋の向こう側にはモノトーンな外見の高層マンションが見えるが、ほ・・・・・・・・・・

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