「匂いを嗅がせて」

視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。未知のウイルスが既知のものとなり、非日常が日常となりつつあるこの混沌とした世の中で、五感のうち最も乏しくなっている感覚は嗅覚だと思う。例の感染症を患うと嗅覚に異常をきたすというが、患わずとも日夜マスクで覆われた鼻へ届かぬ季節の匂いや、オンラインでは感じ取れない人や場所の匂いなど、嗅ぎ取ることの叶わぬ匂いが知らず知らずのうちに過ぎてゆく。 匂いは、記憶との結びつきがとても強い。例えば、木の床の湿ったような匂いに小学校の掃除の時間を思い浮かべたり、帰り道にふと漂うどこかの夕飯の匂いに懐かしい郷土料理を思い出したりする。匂いは、大したことはなくても何気なく愛おしい瞬間を、ふと呼び覚ますタイムカプセルのような力を持っている。 先日、監督作『海辺の金魚』の鹿児島での舞台挨拶を前に、ロケ地である鹿児島県阿久根市を久しぶりに訪れた。撮影でお世話になった「そうめん流し 大野庵・・・・・・・・・・

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