もやもやレビュー

孤独な男と女の美しさと悲しさ 『トニー滝谷』

2024年3月22日02:25

『トニー滝谷 スタンダード・エディション [DVD]』 イッセー尾形,宮沢りえ,市川準 ジェネオン エンタテインメント

生まれもって孤独を選んできた男が、それを忘れさせてくれる人と出会い、愛し合う。しかし早すぎる死がふたりをわかち、ふたたび孤独に突き落とされる...。村上春樹著『レキシントンの幽霊』のなかに収録されている同タイトル『トニー滝谷』の映像化作品は、監督・市川準(1948-2008)の追悼上映をきっかけで知り、そこではじめて観た。名画座・目黒シネマに行ったのもその日がはじめてだったと覚えている。覚えている、ということは、それだけ印象的だったのだ。

イラストレーターであるトニー滝谷(イッセー尾形)は、買い物依存症の妻が遺した大量の洋服を背格好の似た女性に着せ、自分の横で働かせることで、愛する人の不在を己に馴染ませようとする。求人広告をみてやってきた女(宮沢りえ)は、その服を前にし、涙を流す。

その涙はいったいなんだったのか。洋服を買い漁ることでじぶんの隙間を埋めていたのなら、果たして妻は本当に夫を愛していたのだろうか。トニーの父がジャズ奏者であることに込められた意味は? そんな解せない余白もまとめてうつくしい。痛みにぽつんと落とされた波紋のような、そんな感動があると思う。ナレーションに西島秀俊。音楽を坂本龍一。

(文/峰典子)

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