31年ぶりにムショを出た男~『31年ぶりにムショを出た』

31年ぶりにムショを出た―私と過ごした1000人の殺人者たち
『31年ぶりにムショを出た―私と過ごした1000人の殺人者たち』
金原 龍一
宝島社
39,494円(税込)
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 裁判員制度が8月に始まり、裁判というものがより身近になった2009年。国民の大多数は死刑に賛成だが、ちまたでは「自分が裁判員になって『死刑』と言うのは別」という現実的な意見も出てきた。もしあなたが裁判員に選ばれ、死刑を選ぶことを躊躇した場合、次に重い刑は無期懲役。しかし無期懲役とはいったいどんな刑なのだろうか?

 それを誰よりもよく知るのが『31年ぶりにムショを出た』の著者・金原龍一氏。何しろ彼は30才の時に強盗殺人を犯して無期懲役となり、実に31年の服役生活を経てようやく社会へと復帰したばかり。「31年なんてよっぽど態度が悪かったんじゃないの? 普通10年か20年ぐらいでしょ?」と思ったあなた、もう少しお付き合い願いたい。

 無期懲役に関する代表的な「ウソ」として「無期懲役になっても10年か15年で出られる」という説がある。たしかに1970年代頃までは、多くの無期懲役囚は20年弱で仮釈放されている。しかし、近年無期懲役囚の収監年数は長期化しており、さらに04年の法律改正で有期刑の最長が30年に改められたため、現在では無期懲役囚が仮釈放されるのは30年以上が事実上の前提条件となった。

 実際08年末現在、無期懲役囚は全国で1710名いるが、08年に仮釈放されたのはわずか5人。そしてその5人の内の1人がこの金原氏だった。つまり31年で出られた金原氏は、まだ早い方だったわけである。

 その金原氏は「刑務所に入って良かったことは何もない。無駄な時間だった。だから私と同じことは繰り返さないで」と述べている。しかしその上で彼は「殺人者である私が言えたことではないが、頭の中だけで考えて裁くのは恐ろしい。裁判員の皆様には、自分の年齢から30を引き、その重みと長さについて考えて頂きたい」と、彼なりの立場から裁判員への熟考を促している。

 ちなみに、31年ぶりにシャバに出てきた浦島太郎状態の著者は、思わず「刑務所に戻りたい」と母親にこぼして慌てて否定している。30年前といえば、ケータイもネットも、自動改札も普及していなかったのだから無理もない?

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