連載
映画ジャーナリスト ニュー斉藤シネマ1,2

【映画を待つ間に読んだ、映画の本】 第28回「名画座手帳2016」〜どんな本にするかは、あなた次第。

名画座手帳2016
『名画座手帳2016』
トマソン社
1,620円(税込)
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●これはもう、立派な1冊の本である。

 「名画座かんぺ」という、都内の名画座の上映番組や作品のスケジュールを集めたフリーペーパーが流通しているのは知っていた。時々それを手に取るのは、決まって池袋の古書店であった。この理由は簡単で、この古書店に勤める女性が「名画座かんぺ」の発行人・のむみちさんなのである。バス停の前という絶好の立地条件にあり、映画関連書籍の品揃えが良いその古書店をある日訪れたら、入り口を入った真ん前に、何やらコーナーが有り、そこに「名画座手帳2016」が積んであった。名画座好きは数々いるけれど、それ専用の手帳を作ってしまうほど好きなのか。大したもんだなあ。そう思ってサンプルをぱらぱらめくって驚いた。
 ・・・・これって、もう「本」じゃないか!!

 名画座通いをするための年間・月間・週間スケジュール表に加えて、映画人(監督/スタッフ/俳優)の誕生日と命日を網羅し、さらに日本の映画監督75名の活動期チャート(チャートってあたりが、アイディア賞ものだ!)、映画の感想をたっぷり書ける4mm方眼のメモ。そして圧巻と言えるのが、新文芸坐、神保町シアター、ラピュタ阿佐ヶ谷、フィルムセンター、シネマヴェーラ渋谷の、都内名画座5館の座席表とスクリーン・サイズが丁寧に図示されている。これは優れた仕事だぞ。加えてあの時代の物価表、年齢早見表は、旧作の公開当時に思いを馳せる上で、必須のアイテムになりそうだ。もちろん「名画座かんぺ」を収納出来るポケットがついているあたりも、ポイント高し。


●映画ノートをつけ続け、記録を蓄積する楽しみを、
                映画ファンはよく知っている。

 映画に熱中した人ならば、「映画ノートをつける習慣」がついた時期があるだろう。見た映画の思い出を、そのままにしておきたくなくて、そのままにしておくのは、あまりにももったいなくて、でも評論とかを書きたいわけではなく、鑑賞年月日と上映館、監督に主演俳優を記録としてどこかに書いておきたい。実は、僕も中学・高校生の頃つけていた。そしてこうした記録が溜まってくると、次の誘惑として、映画ノートをまとめて本にしたくなる。誰かに見せたいというのではなく、限定1部。自分の映画鑑賞の蓄積として残したいと思う様になるのだ。時々何年か前の記録を読んでは「あの頃は、1日に何本も見たなあ・・・」と、かつての自分を回想する、まあノスタルジックなお楽しみなんだけどね。この「名画座手帳2016」を使えば、そんなマイ・ブックが手軽に出来る。しかもサイズが文庫判だから、保存もしやすい。

 さて、映画ノートをつけ続ける楽しみに目覚めた映画ファン諸君、どこまでこの手帳を汚せるか。どこまで使いこなせるか。来年の今頃には、2016年春から2017年春までに鑑賞した映画について、ズラリとタイトルが並ぶ、そんな手帳ならぬマイ・ブックを作ることが出来れば、もう後戻りは出来ないぞ、色んな意味で(笑)。

 個人的にもここ1年以上、映画史をディープに掘り起こす作業なんぞをやっていたので、この手帳を見て、映画を見た後わずかな文章でもそれを記録する喜びが、映画雑文書きなる職業へと発展したのだなあと、感慨深いものを感じてしまった。マイ映画ノートは未だきっちり保管してあり、その数大学ノートに2冊分。最初に登場するのは、1974年1月6日。僕が大きな影響を受けた、あの映画のタイトルから始まるのだが、僕は未だにその映画のインパクトから抜け出せないでいる。ほんと、映画って恐いよお。色んな意味で(笑)。

(文/斉藤守彦)

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斉藤守彦(さいとう・もりひこ)

1961年静岡県浜松市出身。映画業界紙記者を経て、1996年からフリーの映画ジャーナリストに。以後多数の劇場用パンフレット、「キネマ旬報」「宇宙船」「INVITATION」「アニメ!アニメ!」「フィナンシャル・ジャパン」等の雑誌・ウェブに寄稿。また「日本映画、崩壊 -邦画バブルはこうして終わる-」「宮崎アニメは、なぜ当たる -スピルバーグを超えた理由-」「映画館の入場料金は、なぜ1800円なのか?」等の著書あり。最新作は「映画宣伝ミラクルワールド」(洋泉社)。好きな映画は、ヒッチコック監督作品(特に『レベッカ』『めまい』『裏窓』『サイコ』)、石原裕次郎主演作(『狂った果実』『紅の翼』)に『トランスフォーマー』シリーズ。

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