もやもやレビュー

鑑賞すること自体が"受難"。『受難』

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 映画の場面などの意味を考えることは、映画の楽しみの一つであろう。あれこれと友人や同好の士と語らう、また楽しからずや。
 しかし、同じ考えるでも「何でこの映画を作ったのだろう?」と考えるのは、特殊な性癖を持つ紳士淑女を除けば娯楽でなく拷問である。本作のタイトル『受難』は、おそらく視聴者が95分間酷い目に遭うという意味なのではないかと結構本気で思えてくるほど内容が分からない。考えようにも、何を考えればよいのかさえ分からない。原作小説は未読だが、原作を読めば意味が分かるのだろうか。映画化するという意味についても考えてしまう。
 本作が公開された2013年に話題が「岩佐真悠子が濡れ場を演じる」という部分だけに焦点が当てられていたこともむべなるかな。

 あらすじをざっくりと説明すると、天涯孤独で修道院育ちのフランチェス子(岩佐真悠子)は、スカウトされてモデルをつとめるほどの美貌を持ちながらも、なぜ男女は付き合いセックスをするのかについて疑問を抱く性格が災いして男性経験がない。
 ある日、フランチェス子の性器に性格のひねくれた人面瘡ができる。フランチェス子の言動を一々「だからモテないんだ」など口汚く罵倒する。フランチェス子はさして意に介さず人面瘡に「古賀さん」と名付け、文字通り一心同体の生活を送っていく。

 ......完全な出オチである。予告編を視聴した時「この設定でどう話が進むのだろう?」と期待した修道女ばりに清廉な気持ちを返してほしい。
 筆者が住んでいる土地は陸の孤島で、映画館へは片道1時間、近所のレンタルビデオ店は人口が減少し過ぎて閉店してしまった。ゆえに映画を観るという行為は田舎在住の人間にとってハードルが高いのである。仮に本作を映画館で鑑賞していたら、怒りと悲しみでスクリーンを切り裂く程度の犯罪はやらかしたかもしれない。

 一方的な罵詈雑言はフェアでないので、当時の出演者インタビューなども読んでみたのだが、筆者が観た映画とは別の話をしているのではないかというくらいズレがある。某誌に「ダメな自分を受け入れる強さを身に付ける」とあった。
 確かに主人公は666人の男に「私とセックスしたいですか?」と訊ねては「いやぁ、ないです」と即答されるほどモテない。作中でモテるために何か行動する様子もない。それどころか、右手に男をインポにさせる特殊能力を得る、自宅をラブホテルとして他人に貸し出す等々、ダメな自分という軽いくくりでよいのだろうか。
 それにしても、岩佐真悠子が666人にそんなことを聞いたら999人はイエスと答えると思うのだけど。設定が「モテない!」と言っているのだから受け入れねばならない。これも受難か。

 好意を寄せていた男性を知らぬ間にモデル仲間が持っていく。そのモデル仲間は2度堕胎するわ、彼氏とセックスできないストレスからクライアントとファックするわと素敵な性格なのに処女のふりをしたものだから、ご友人の計らいによって処女のフランチェス子は間違いで好きな男とセックスさせられる。しかも猿ぐつわ付きで。実際にこんなことが起きたら犯罪だが、特に波風が立つことなく淡々と物語は進む。何故かフランチェス子は処女喪失後に全裸で路上を走り出すが。
 最終的に人面瘡の古賀さんが人間となり、フランチェス子とセックスして幕が閉じる。何故男女はセックスするのか疑問に思いながら日々を過ごしていた主人公が男女の交わりに悦びと感動を見出すのだからハッピーエンドと言えるのだろう。

 延々と取り留めない駄文をつらつら書いてきたのは、一応理由がある。かつて映画業界人の手違いで、ライターの筆者が映画製作に携わるという羽目に陥った。
 取材して原稿を書くという作業は基本1人でするもので、それを編集者へ納品する。極めて少人数で回る世界しか経験していない人間が、大多数が働く現場に放り込まれた際「三人寄れば文殊の知恵と言うし、優れたものが出来上がるのだろうなぁ」と思っていた。しかし、結果は大失敗だった。
 大多数が関与すれば、誰かが問題にストップをかけるものだと勝手に考えていたが、実際は逆だった。「これ、おかしいんじゃない?」と声を上げたところで、人数が多いゆえに止まるに止まれなかったのだ。

 収集がつかない映画を観る度にそのことを思い出し「ああ、止まれなかったのだな」と現場の労力が全く報われなかったことを想像し、切なくなるのである。本作についても同様の感想しか抱けない。

(文/畑中雄也)

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