もやもやレビュー

リズムをとるように人生を。『追憶と、踊りがながら』

追憶と、踊りながら [DVD]
『追憶と、踊りながら [DVD]』
ベン・ウィショー,チェン・ペイペイ,アンドリュー・レオン,ナオミ・クリスティ,ホン・カウ
アットエンタテインメント
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まず最初に、タイトルが素敵だな、と思った。『追憶と、おどりながら』。原題を調べてみると、『LILTING』。この単語には、踊る、弾む、やさしくリズムをとるという意味があるという。
その名の通り、終始やわらかなリズムが心地よく漂って、じんわりと優しい余韻が波紋のように広がり続ける映画だと思う。

舞台はロンドン。カンボジア中国人のジュン、息子であるカイ、カイの恋人で英国人のリチャードを中心に描かれる。カイは自分がゲイであることを母にカミングアウトできないまま急逝してしまう。リチャード(ベン・ウィショー)と、ジュン (チェン・ペイペイ)が、言葉と文化の壁をどう乗り越え、息子、そして恋人であるカイの死を共に受け入れていくのかが、丁寧に描かれている。
ホン・カウ監督はカンボジアで生まれ、ヴェトナムで育ち、家族と共にロンドンへ移住した。母親はカンボジア人で英語ができず、幼いころから通訳をしていたそうだ。もしも自分がいなくなったら母はこの先どうなるのだろうと、子供ながらに考えたという。その経験がこの映画を生み出した。

大きなネタバレではないので、お気に入りのシーンを紹介させて欲しい。中盤、カイとリチャードが暮らしていた家に、ジュンがやってくる。リチャードはサンドイッチをつくりだすが、ジュンはいらないという。しかし、箸を上手に使いベーコンを焼くリチャードの姿に驚きが隠せない。「もう、箸なしで(料理)は無理だ」という言葉に、ジュンは何かを慮る。「......いい家ね」。そして、息子の匂いの残る部屋を後にするのだった。ベン・ウィショーの繊細な演技、憂いを帯びた瞳に釘付けになる。素晴らしいシーンだと思う。

(文/峰典子)

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