もやもやレビュー

広い世界を知る『はじまりへの旅』

映画『はじまりへの旅』は 全国公開中です!

「普通」ってなだろう?
本作を見ている間、終始考えることになるのは自分が思っている「普通」とは自分が決めた自分基準のものであるのだということ。
作品の主役となるキャッシュ家は、現代社会の中であえてガスも電気もない森の中で自給自足の生活をおくっていた。父親と6人の子供は古典文学や哲学に詳しく、6カ国語も話すことが出来る。さらに護身術も身につけていてアスリート並みの体力もある。だけど私たちの生活のすぐそばにあるテレビもジャンクフードも知らないのである。
そんな彼らがある日、父親の運転するバスに乗り向かう先は、遠くで療養生活を送っていた母親のお葬式だった。

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バスでお葬式の会場まで向かう間に見る景色は子供たちにとって自分たちの知らない世界であった。家族でバスに乗って旅をするロードムービーといえば『リトル・ミス・サンシャイン』を思い出すが、この家族の旅はひと味もふた味も独特だ。

母親の死の受け止め方は6人の子供の年齢や思想、性別によって異なる。「母」という存在への喪失感は「父」という存在を見直すきっかけにもなる。
科学を知らない自給自足の生活が自分にとって本当にベストなものなのかを、一人一人が考える。
少し両極端ではあるけれど、私たちの生活の中でも田舎に暮らしていれば都会に憧れるし、都会に暮らしていれば田舎でのスローライフに憧れる。それに似ているのかもしれない。

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父親を演じたヴィゴ・モーテンセンはロードオブザリングで素晴らしく格好良かったのでファンも多いだろう。本作はひげが生えている時とひげを剃った後のギャップがたまらない。
映画を見始めた時の神秘的な映像とラストの映像の違いから家族の心境の変化が感じられて、119分という乗車時間は心地よく有意義なものになるだろう。

(文/杉本結)

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『はじまりへの旅』
全国公開中!

監督:マット・ロス
出演:ヴィゴ・モーテンセン、フランク・ランジェラ、ジョージ・マッケイ、サマンサ・アイラー、アナリース・バッソ
配給:松竹

原題:Captain Fantastic
2016/アメリカ/119分
公式サイト:http://hajimari-tabi.jp
©2016 CAPTAIN FANTASTIC PRODUCTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED.

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