もやもやレビュー

高知でしか作れなかった映画を、高知のスペシャルな劇場で。 『0.5ミリ』

主人公のサワ(安藤サクラ)は生きるため、天真爛漫な性格と料理、ヘルパー経験を武器に老人たちの生活に入り込んでいきます。

11月8日より東京・有楽町スバル座ほかで公開された『0.5ミリ』。安藤桃子監督が自身の介護経験を基に書きあげた同名の小説を原作とした本作品は、仕事と住むところ、そして金をいっぺんに失ったヘルパー・山岸サワ(安藤サクラ)と老人たちとの時に激しく、時に静かな交流を描いています。

さて、この『0.5ミリ』は通常の映画館に加えて、日本でただ一か所だけ、とてもスペシャルな場所で上映されています。

その場所とは、高知県の高知城近くにある城西(じょうせい)公園。

本作のシナリオを書くにあたってスランプに陥った安藤監督に、父であり作品のエグゼクティブ・プロデューサーでもある奥田瑛二氏は一つのヒントをくれたそう。「お前の思い描いてる街は高知だと思う」。

すぐに高知県に向かった安藤監督がそこで見つけたのは、自身が思い描いていた本作のイメージでした。そしてほぼすべての撮影を高知で行い、高知に惚れこんだ監督はその後、同地に移住するに至っています。

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始めは芸人の「坂田利夫師匠」にしか見えなかった茂さん。最後には天使に見えました...。

そのようにして、高知とは切っても切れない作品となった本作を上映するために、前述の城西公園には特設の映画館が作られました。10年以上前に閉館した映画館「高知東映」での上映も検討されましたが、老朽化によって叶わず。地元の建設会社によって、高知東映が入っていたビルに残されていたスクリーン、客席、スピーカー、禁煙・非常口のランプ、緞帳を使った『0.5ミリ』のためだけの新しくも懐かしい映画館が誕生したのです。

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サーカスのテントのようなかわいい外観。(photo by Musashi Shimamura)

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どこか懐かしい雰囲気の劇場内。

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公園の野外ステージに設置されたスクリーンを中心に、工事現場の足場と防音シートで作られた全天候型の特設劇場の外では、週末になると食と雑貨のマルシェが開かれています。さーたーあんだぎーの「まーさん堂」、居酒屋「アサンブレ・カンタ」のおにぎりなど高知で人気の味わいを映画といっしょに楽しめるのもこの会場ならではの魅力。時にはライブが行われることも。劇場内も飲食OKとなっているので、ビールやスナックを持ち込めるのがうれしいところです。

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劇場の名物になっている「まーさん堂」のさーたーあんだぎー。

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満月の夜に出店していた「fete」。出店はその日によって異なります。

高知の空気がそのまま映し出されている本作を鑑賞するのにこれほどぴったりの場所はありません。作品の世界をより深く堪能したい人は特設劇場を訪れてみてはいかがでしょうか。そこにはきっと、作中のサワやおじいちゃんたちのような、個性的でイキイキとした高知の人との出会いがあるはずです。

(文/小野好美)

***
『0.5ミリ』
有楽町スバル座ほか全国順次公開中

監督・脚本:安藤桃子
出演:安藤サクラ / 柄本明 坂田利夫 草笛光子 津川雅彦
原作:「0.5ミリ」安藤桃子(幻冬舎文庫) 
配給:彩プロ
2013/日本映画/196分

公式サイト:www.05mm.ayapro.ne.jp
©2013 ZERO PICTURES / REALPRODUCTS

◆高知特設劇場
 高知県高知市丸ノ内1丁目8
 11月24日(月・祝)までの期間限定オープン(期間中無休)
 10:00~、14:00~、18:00~の一日3回上映
 http://www.05mm.ayapro.ne.jp/kochi

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