もやもやレビュー

杉山すぴ豊が語る『中学生円山』

『中学生円山』5月18日より全国公開!

 僕が、その映画のことを気にいったかどうか、の指標の一つに、観終わったあと「あの主人公たちはいまごろどうしてるんだろうか?」と、その続きを想像しちゃうか、というのがあります。そういう意味で言うと、僕はあの円山くんがその後どうなったのか? どういう大人になるんだろうか? と、思いをめぐらせてしまいました。

 団地という極めて閉鎖的な日常の中で、"そこそこ"に生きる中学生円山くんの前に、ある不思議な男が現れます。ひょんなことから、その男と接点を持つ円山くんですが、やがて、事件が起こりはじめます。どうやら、その男が絡んでいるらしい。果たして、その男の正体とは?というストーリーに、円山くんの性的妄想や、円山くんの家族のちょっと異常な行動のエピソードが絡んできます。

 僕は宮藤官九郎さんの熱烈なファンというわけではないので、この作品がいわゆるクドカン・ワールドとしてどうなのか?的なレビューは出来ないし、日本版XXXみたいな言い方は、宮藤官九郎さんに失礼かもしれませんが、日本の中学生版『スタンド・バイ・ミー』もっとマニアックに言えば、僕の好きな『キック・アス』(ヒーローに憧れる、ダサイ少年が本当にヒーロー行為をしてしまう、バイオレンス・コメディ)、『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』(ある女の子とつきあうために、その元カレ7人と ありえない戦いをしなければならないゲーム大好きオタク・ミュージシャンの物語)、『エンジェル・ウォーズ』(精神病院で正気を保つために、妄想世界で戦う少女の話)。いずれも、閉塞された日々からなんとかもがいて抜け出そうとする若者たちの、あがきの物語です。

 この『中学生円山』も、かつて僕も体験した、自分をとりまく世界が制限されていた中学生時代の、悶々とした空気がよく出ていました。僕は、"彼のようなこと"にはトライしなかったけれど、息詰まった毎日からエスケープするために、なんか事件が起こってほしいと密かに思っていたし、妄想にもふけってた、この円山くんのようにです。ああ、自分もこんな感じだったよな、と思えたら、この映画を楽しめた、ということでしょう、か。

 どの出演者の方も素敵でしたが、キーとなる男を演じた、草なぎさんの演技が印象に残りました。もし日本で『サイコ』を作るとしたら、草なぎさんが、ノーマン・ベイツだと思う。ノーマルとゾッとする狂気の混在が見事です。

 スクリーンの向こうに中学生のときの"自分"がいます。その円山君に会いに行ってあげてください。

(文/杉山すぴ豊)

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