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プロレス×映画

脚本家が苦労しているのは映画界もWWEも一緒?てなことを考えさせられる妙作『ケビン・ベーコンのハリウッドに挑戦!!』

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 メインストリームのショウビズの世界では、クリエイター自身が純粋に思い描いたものを創ることは難しいとされます。こういった製作の舞台裏を描いた作品というと、名匠ロバート・アルトマンが手掛けた『ザ・プレイヤー』やR・デ・ニーロ主演の『トラブル・イン・ハリウッド』など多数ありますが、今回のお題『ケビン・ベーコンのハリウッドに挑戦!!』(1988)は、新人脚本家の栄光と挫折と再生(開き直り)の物語。

 主人公ニック(ケビン・ベーコン)は、映画学校の卒業制作の短編映画(初期のD・リンチ風モノクロ作品)で最優秀賞を獲得。その作品が映画関係者の間で話題となり、ハリウッドに飛び込んだニックだったが、業界の洗礼を浴び、自分を見失っていく......

 この作品の特徴は、劇中の現実が劇中劇に介入するところでしょう。時にはニック自身がその場の状況の解決策を"妄想"し、その周囲の人々も巻き込んだ妄想劇を演じたりもします。

 ただ、映画スタジオの大物幹部アレンの世俗的で話題性・収益性重視の映画理論に抵抗を示していたニックも、次第に業界の毒気にあてられ、チョーシこいてしまうワケです。
 恋人を捨てセクシー女優を狙い始め、撮影技師の親友ともギクシャクし始めたかと思えば、後ろ盾だったアレンがスタジオをクビになったおかげで、準備していた映画は棚上げ。

 新たな売り込み先をあたるも、どこに行っても反応が薄いことから、舞台を冬山から浜辺へ、主要人物をキャビンアテンダントや幽霊に変えてみたり、自ら内容を変えてしまうのです。それでも作品に買い手はつかず、配送やテレアポで日銭を稼ぐ日々を送るニック。肝心の脚本も書き上げられないドン底へ。
 進退窮まったニックは、自分の撮りたいモノを撮るという方向性に立ち返り、これが好転し再生に繋がることになります。

 一方、プロレスのWWEは、「RAW」という看板レギュラーが、毎週月曜に生放送ということで、団体トップであるマクマホン会長からの書き直し命令は放送当日でも容赦なく発生。数週間前から計画されていたアイデアが一瞬で覆ることもしばしば。
 放送直前(あるいは放送中)にスパスタ(選手)のケガやアクシデントがあった場合など、本作の「現実が劇中劇に影響を与える」かのように、現在進行形で書き直して行くこともあるワケです。

 そんな過酷な現場に耐えきれず、脚本家たちの平均勤続日数はたったの3ヶ月。しかも、会長の要求に応えられないと数十人が一気にクビになることもあった......という証言も出るほど。

 ただ、とはいっても勿論、マクマホン会長の判断、映画業界人の判断が正しいこともあるでしょう。
 実際、本作のエンディングは確かにハッピーエンドですが、撮影現場に立ち会うニックの父と母の一般人としての反応は「ポカーン」としたもの。
 ニックの映画のオリジナルアイデア自体、面白そうなものとして描かれていない点からも、創りたいものを創るということがクリエイターの自己満足なのではないか、という問い掛けにも見えなくもなかったり(※)。なんとも不思議な後味が残る作品です。

(文/シングウヤスアキ)

※ 本作の監督・脚本であるクリストファー・ゲストは、80年代ハードロック業界の舞台裏を描いたモキュメンタリー『スパイナル・タップ』でも共同脚本と主演と担当しており、業界側とクリエイター側の両視点を描くことには一家言もつ人物です。

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シングウヤスアキ

会長本人が試合までしちゃうという、本気でバカをやるWWEに魅せられて早十数年。現在「J SPORTS WWE NAVI」ブログ記事を担当中。映画はB級が好物。心の名作はチャック・ノリスの『デルタ・フォース』!

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