インタビュー
映画が好きです。

Vol.17 ジュリアーノ・リベイロ・サルガドさん(映画監督)

尊敬する監督は、クロサワ。 彼は特別な監督だと思います。

 虐殺、戦争、飢餓など、時に人間社会の暗部を見つめ、伝え続けてきた報道写真家セバスチャン・サルガド。その40年に及ぶ足跡を追ったドキュメンタリー映画『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』......カンヌやアカデミー賞などですでに高い評価を集めておりますが、8月1日(土)からいよいよ日本でも公開です! 
 ルワンダ大虐殺の取材後、大きな精神的ダメージによって休養を余儀なくされるなど、サルガドが味わった絶望、そして、やがて見いだしていく希望に心を揺さぶられる本作(なんとなく『Zガンダム』のカミーユを思い出したりもしちゃいます)。サルガドの写真の大ファンでもあるヴィム・ヴェンダースと共同監督を務めた、サルガドの長男ジュリアーノ・リベイロ・サルガド監督に、本作について、また好きな映画についても話を聞いてきました!

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ジュリアーノ監督。イケメンで、しかもとても物腰柔らかです。

──映画をまとめあげた今、どんなお気持ちですか?

「本当に満足しています。1年前にカンヌで紹介されて以来、いろんなところで映画を見ていただきましたが、みなさん反応がすごく好意的で感謝の気持ちでいっぱいです。この映画は、私の父であるセバスチャン・サルガドのアーティストとしての一面を紹介していますが、映画を通して、みなさんに希望を持つことの大切さを分かち合って欲しいと思ったんです。両親は共にすごく前向きな人たちで、故郷に少しずつ木を植えることで、いろんなことを変えていきました。彼らがそうであったように、身の回りの些細なことから始めたことも、続けていくことで大きな運動に変えていくことができる。それもまた、感じていただきたいことの一つです」

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映画のメイキング風景。

──子どもの頃のジュリアーノ監督にとって、お父さんは「スーパースター」だったって言っていましたが、今はどうですか?

「思春期の頃から、父との関係はすごく悪くなって、この映画を作り始める前は、ちょっと寄ると喧嘩になってしまうような、すごくまずい状態でした。そんな時、父が最後の大プロジェクト"Genesis"に取り組み始め、ブラジルの辺境に暮らすゾエ族という少数民族の撮影旅行に一緒に行こうとものすごく説得されたんです。父はおっかなくて嫌だなぁって、私としてはまったく気が進みませんでしたが、どうしてもと言われ、同行することになりました。
 ゾエ族のところに1ヶ月くらい滞在したあとは、パプアニューギニアの人里離れた寂しい場所にいる少数民族ヤリ族に会いに行き、セイウチやシロクマがいる北極圏にも行きました。本当に過酷で大変な旅でしたが、一緒に旅をした父との距離は一切縮まりませんでしたね。それどころか父はすごく集中して入り込んでいるので、話もできないような状態でした。でも、帰って来てから、旅の間に撮っていた映像を短編にまとめて、父に見せたんです。そうしたら、感動したって泣いてくれて。撮った映像もよかったけど、それを通してお前が見えたよって言ってくれたんです。その出来事が、私たちの関係を改善するきっかけになりました。
 今、父は友達のような存在です。ちょっと変で、不思議な(笑)」

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子どもの頃のジュリアーノ監督と、セバスチャンお父さん。

──お父さんの作品の中で一番好きなのはどれですか?

「ブラジル金鉱の作品群の中の一枚で、2人の男が睨み合っている写真です。ひとりは奴隷のような格好、もう一人は警察官のような感じの人物。暴動のような恐ろしいことが起こりそうな雰囲気の中、2人が睨み合っています。警察官のような人は銃を持っていて、今にも発砲しそうな緊張感が漂っています。でも、奴隷のような格好の人は、ここに一攫千金を夢見て金を掘るつもりで来ている自由な人。一方の警察官のような人は政府に雇われた下っ端の役人で、ある意味で囚われた人物です。彼らのどっちが、より多くの力を持っているのかわからない。そういうセバスチャン流の自由な解釈を許す写真です」

──尊敬する映画監督は?

「ヴィム・ヴェンダース以外で?(笑) クロサワです。彼は特別な監督だと思います。特に『天国と地獄』は、ロンドンで映画の専門学校に通っていた時に見て以来、大好きな映画ですが、3つ注目すべき点があると思います。前半の密室劇のような演出から、中盤はアクション満載のモダンな映画になっていく。そして後半は、ヌーヴェルバーグのようなちょっと表現主義的なコントラストのはっきりした映像になっていく。3つのスタイルが1つの映画の中で同時に表現されている、記念すべき作品だと思います。ちなみに、クロサワの最初の作品『姿三四郎』も授業で見ましたが、あまり評価は高くないですね。でも、クロサワの凡庸な映画を観ると、ちょっと安心します(笑)」

──今回、共同監督をして、ヴィム・ヴェンダースから学んだことは?

「ヴェンダースはとにかく、演出の腕が冴えています。撮りたい対象を、どういう方法で撮るのが最適かを見つける才能があると思います。『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』は音楽が主題になっている映画ですが、ステディカムを使って音楽の揺れ動きと同時に、人々も揺れ動いているということを上手くとらえていると思います。『Pina/ピナ・バウシュ 踊り続けるいのち』は3Dの手法で非常に奥行きのある映像を実現しましたが、それがアートの奥行きの深さをも表現していると思います。セバスチャンに関しては、モノローグのようなシーンがあるんですが、そこにはヴェンダースが発明した装置が使われています。撮影をしているんだけれども、まるで撮られていないかのように、セバスチャンが写真を見ながら湧き起こるままに思いを語るということを可能にした、鏡のような装置です。そういうことを考え出す、発明の才、創造の才のある人だと思います」

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ヴィム・ヴェンダースとセバスチャン・サルガド。

──ヴェンダースの作品で一番好きなのは?

「『ベルリン・天使の詩』です。俳優もすごく良かったですし、素晴らしい映画だと思います」

ジュリアーノ監督、ありがとうございました!

(取材・文/根本美保子)

***

『セバスチャン・サルガド/地球へのラブレター』
8月1日(土)よりBunkamuraル・シネマほかにて全国ロードショー!

監督:ヴィム・ヴェンダース、ジュリアーノ・リベイロ・サルガド
配給:RESPECT(レスペ)×トランスフォーマー
2014/フランス・ブラジル・イタリア/110分

原題:The Salt of The Earth
公式サイト:http://salgado-movie.com
©Decia films-Amazonas Images-2014
©Sebastião Salgado ©Donata Wenders ©Sara Rangel ©Juliano Ribeiro Salgado

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ジュリアーノ・リベイロ・サルガド

1974年パリ生まれ。映画監督/ドキュメンタリー監督。フランスのテレビ局の短編映画やドキュメンタリー製作等で活躍。現在、初の劇場用映画をブラジルのサンパウロで準備中。

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