インタビュー
映画が好きです。

Vol.13 エレーヌ・ジローさん&トマス・ザボさん(映画監督)

バンド・デシネの巨匠メビウスの実娘夫妻が影響を受けた、日本のアニメーション映画とは?

ヨーロッパで大人気のショートアニメーション『ミニスキュル(minuscule)』の共同監督を手がける、エレーヌ・ジローさん&トマス・ザボさんご夫妻。奥さんのエレーヌ・ジローさんが、メビウスことジャン・ジロー氏(故人)の実の娘さんということでも話題です。テレビシリーズが日本でもNHK Eテレで2012年から放送されていた『ミニスキュル』(現在日本での放送は終了)。このたびシリーズ初の長編映画『ミニスキュル〜森の小さな仲間たち〜』の日本公開が決定!というわけで、TAAF2014(今年3月)にて行われた日本初上映に合わせて来日した、エレーヌ・ジロー&トマス・ザボ監督(ご夫婦の共同監督!)にインタビュー!

──『ミニスキュル』の大きな特徴である実写とCGの組み合わせ。その効果とは?
エレーヌ「観客が"あれ?"って混乱するような、現実と想像の境目がわからなくなるような、そんなビジュアル効果を生むように思います。でも、そもそもなぜ実写の風景を取り入れているかというと、自然の美しさそのものに価値を見いだしているからなんです。その美しい実写風景の中に風変わりなストーリーを入れるということに意味があると思っています」

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小さなてんとう虫が主人公

──今回のロケーションを選んだ理由は?
トマス「テレビシリーズでは、小さなストーリーに合った、牧歌的でかわいらしい風景を選んでいたんですが、今回はアドベンチャーのお話。それに相応しい、壮大で野性的で存在感のある風景を舞台に選びました。ロケ地は、フランスの南、イタリアとの国境に近い位置にある『メルカントゥール国立公園』。谷や渓谷など野生の景色がたくさん残る非常に美しい場所で、ミニスキュルの世界観にぴったりだなと思ったんです。ひとりのキャラクターのような感じで自然を描き出しました」

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リアルすぎず、デフォルメしすぎず、ちょうどいい塩梅のキャラデザが素敵。

──音や動きがとっても面白いですが、どんなこだわりがありますか?
トマス「台詞がない作品なので、音楽と同様の働きをする擬音や音響効果はすごく大事に考えました。『スター・ウォーズ』のサウンドデザイナーのベン・バートって知ってる? この人のやり方にインスパイアされているんです。彼の手法は、風の音や草の音など自然音をいっぱい録りためておいて、さらにそれに紙を破る音など人為的な音を混ぜ合わせるというもの。私たちもテレビシリーズの時から取り入れているんですが、音のパーソナリティがすごく浮き出て、キャラクター造形にとてもプラスになるんです」

エレーヌ「そうそう、私はてんとう虫の鳴き声、彼はハエの声をやったんですよ」

トマス「でも声をそのまま使うんじゃなく、コンピュータを使って音をちょっと伸ばしたり。この世に存在しない、新たな音のランゲージを作るという感じですね」

エレーヌ「ムシたちの動きについては、最初はやっぱり現実世界でそのムシがどんな風に動いているのか、どんな風に飛ぶのかを、しっかりと理解することから始めました。で、そのあとに動きをもう少し単純化して、スタイリッシュにしていくんです。観客がより認識しやすく、しかもかわいらしい表現を目指しました」

──台詞をなしにしたのはなぜ?
トマス「擬人化する、つまり人間に似せるということだけはしたくなかったんです。ムシはムシなんだってことを、リスペクトしたかったから。だから例えばカートゥーンアニメのように、眉毛があったり、人間のような口があるような表現は避けました。目に関しては例外的に動きがありますが、人間的な表情は極力排除しています。虫らしいリアルさにはすごくこだわりましたね」

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──制作において、お父さんからの影響はあるのでしょうか?
エレーヌ「何かを教えてくれたというような直接的なものではないですが、一緒に観た映画や本についてディスカッションしたりしていましたから、アート的な感覚など影響は少なからずあると思います。でも、セオリーのようなものをレクチャーされたことはないですね」

──どんなお父さんだったんですか?
エレーヌ「とっても優しくて、とっても親切で、仕事にすごく熱心。アトリエで描いている時がすごく幸せそうでしたね。父と一緒に過ごす時間を求めるなら彼の世界に入っていくのが一番だって思って、私もその世界に入っていきました」

──エレーヌさんのお父さんは、宮崎駿氏や大友克洋氏など、日本の漫画・アニメーション作家に大きな影響を与えた人。トマスさんは逆に日本のアニメから影響を受けているそうですが、特に好きな作品は?
トマス「もちろん宮崎駿監督にはすごくインスパイアされています。どの作品も好きですが、特には『天空の城ラピュタ』『風の谷のナウシカ』『となりのトトロ』。それから大友克洋さん、森本晃司さんの画風も好きです。森本さんが設立したSTUDIO4℃制作の『マインド・ゲーム』は、キューブリックの『2001年宇宙の旅』のアニメ版だと個人的には思っています!」

エレーヌ「私も好きな作品はほとんど同じ」

トマス「僕よりも彼女の方が早く宮崎監督と知り合っているからね」

エレーヌさん、トマスさん、ありがとうございました!

(写真/金谷浩次 文/根本美保子)

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『ミニスキュル〜森の小さな仲間たち〜』
10月18日(土)より全国イオンシネマ(一部劇場を除く)にて公開!

企画・監督・脚本:エレーヌ・ジロー、トマス・ザボ

公式サイト:http://minuscule.jp
©MMXⅢ Futurikon Films - Entre Chien et Loup - Nozon Paris - Nozon SPRL - 2d3D Animations. All rights reserved.

NHK Eテレでも放送されていた人気シリーズ初の長編映画化。南フランスの森の中で、黒アリと赤アリによるピクニックの残飯を巡る争いが勃発。やがて親離れしたばかりのてんとう虫も巻き込まれ、壮大な闘いに発展していきます。

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エレーヌ・ジロー&トマス・ザボ

エレーヌ・ジロー
『フィフス・エレメント』のコンセプトデザイナー、『ヴァーティゴ』のアートディレクション、『ルネッサンス』のアートディベロップメントなどを担当。メビウスこと故ジャン・ジロー氏の実の娘。



トマス・ザボ
長編映画『ルネッサンス』のアニメーターとして、アヌシー映画祭でクリスタル賞(最優秀作品賞)を受賞。2002年に実写とアニメを融合させた短編映画“Mouche a merde”を監督。

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